世の中には、興味深い思考実験が多数存在します。
暴走トロッコからどうやって人を救うか考えたり、ヒヨコをミキサーにかけて魂の存在を確かめたり、無限の数のサルにタイプライターを打鍵させたりなど、頭の中でだからこそできる問いかけがたくさんあります。
ここでは、そんな面白い思考実験をまとめています。
目次
無限のサル定理
無限のサル定理とは、無限に近い時間や数を想定すればどんなことも実現可能になるという理論です。
「無数のサルがタイプライターの鍵盤を無限の時間、ランダムに叩きつづければ、理論上シェイクスピアの作品を書くことも可能である」との想定から、このように呼ばれています。
世界5分前仮説
世界5分前仮説は、「世界は実は5分前に始まったのかもしれない」という名前そのままの仮説です。
ラッセルというイギリスの哲学者によって提唱されました。
私たちには数年前の記憶もあり、一見あり得ないような仮説に思えます。
しかし、偽の記憶を5分前に植え付けられた状態で世界が始まったのだと考えれば、以前の記憶があることも、この仮説の反証にならないため、完全に否定することは難しいです。
スワンプマン
スワンプマン(沼男)とは、アメリカの哲学者デイヴィッドソンによる思考実験で登場する架空の生き物です。
簡単に言うと、スワンプマンはある男と全く同じ肉体や記憶を持つ、男とは別の存在のことです。
ラプラスの悪魔
ラプラスの悪魔とは、フランスの哲学者ラプラスによって提唱された、この世界の全てを知る超越的な生き物です。
例えば、サイコロを振った瞬間に、その力の向きや勢い、落下地点の状態など、全ての情報がわかれば出る目も計算可能です。
私たちが生きるこの世界の物質は、全て原子で構成されているため、サイコロの例の規模を拡大すれば、未来の予測は、この世界全体にも当てはまります。
つまり、この世界の全ての原子の位置と運動量を知ることのできる知性が存在するとすれば、その存在はこの世界の未来を見通すことができると言えるでしょう。
中国語の部屋
中国語の部屋とは、アメリカの哲学者ジョン・サールによる、思考や意識についての思考実験です。
中国語を理解できない人を部屋に閉じ込めて、マニュアルに従った作業をさせるという内容で、人間の意識について考える際によく取り上げられます。
カブトムシの箱
カブトムシの箱とは、オーストリアの哲学者ヴィトゲンシュタインによる思考実験です。
数人が集まってできたグループがあり、各人は中身が入った箱を渡され、それはカブトムシだと伝えられます。
ここで、このグループの全員はカブトムシというものを知らないとします。
各人は自分の箱の中身だけ見ることができ、他メンバーの箱の中身を見ることはできません。
ここで、各人は自分の箱に入っているカブトムシについてのみ話すことができ、互いに同じカブトムシが思い込んでいます。
この時、本当に各人の箱には同じカブトムシが入っていると言えるでしょうか?
マリーの部屋
マリーの部屋とは、オーストラリアの哲学者フランク・キャメロンによって提唱された、人間の知覚に関する思考実験です。
マリーと言う女性は白黒の部屋で生まれ、そのまま部屋の中で育てられ、これまで1度も色を見たことがないとします。
マリーにとっての世界は、そのモノクロの部屋の中だけです。
しかし、マリーは白黒の本で勉強し、色というものの存在を知っています。
マリーは、実際には白黒以外の色を見たことはありませんが、どのようにして目で知覚した色の情報が脳に伝わり認識されるかなど、視覚についての完全な知識も持っています。
では、このマリーが白黒の部屋を飛び出し、外の世界で初めて色を知覚したとき、何か新しいことを学ぶのでしょうか?
トロッコ問題
トロッコ問題とは、ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるかを問う思考実験です。
線路を猛スピードでブレーキの故障したトロッコが走っているとします。
このままでは線路の前方で作業している5人の作業員が轢き殺されてしまいます。
あなたは線路の分岐器のすぐそばにおり、トロッコの進路を切り替えれば5人を助けることができます。
しかし、切り替えた進路の先には別の1人の作業員がいて、その1人は5人の代わりに死んでしまうでしょう。
この時に、進路を切り替えることは正しいのでしょうか?
臓器くじ
臓器くじとは、ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるかを問う思考実験です。
病院に5人の患者がいて、それぞれが異なる臓器の移植を必要としています。
ある1人は肝臓が悪く、別の1人は腎臓が悪い、といった具合です。
移植をしないと近い将来この患者たちは死んでしまいます。
そこに全ての臓器が健康な患者が現れました。
彼を殺して臓器をそれぞれの患者に移植すれば5人を助けることができます。
1人の男を殺して内臓を取り出し、5人の患者を救う選択は正しいと言えるでしょうか?
ザ・バイオリニスト
ザ・バイオリニストとは、中絶問題について議論する際に利用される思考実験です。
世界的に有名なバイオリン奏者が、重い病気にかかり昏睡状態に陥ったとします。
ただし、あなたとバイオリン奏者の肉体を9ヶ月間接続することで、治療することができます。
ある日、バイオリニストの熱烈なファンが、あなたが眠っているうちに、勝手にバイオリニストの肉体をあなたと接続してしまいます。
目を覚ましたあなたは、接続を解こうとしますが、そうするとバイオリニストは死んでしまいます。
この時、あなたはバイオリニストとの接続を解く権利があるのでしょうか?
これは中絶問題の比喩であり、あなた(=妊婦)がバイオリニスト(=胎児)の生死の判断を行う資格があるのかを問いかけています。
便器の蜘蛛
便器の蜘蛛とは、他者が本当に望んでいることを知ることの難しさを問いかける思考実験です。
ある男がトイレで1匹の蜘蛛を見つけます。
男は便器の上にいる蜘蛛を可哀そうに思い、蜘蛛を捕まえて外に出してあげようとします。
しかし、蜘蛛を手に取ろうとした時に、誤って潰してしまい、蜘蛛を殺してしまいます。
男は好意から蜘蛛を救い出そうとしたのですが、結果として蜘蛛は死んでしまいました。
この思考実験は、他者が本当に望んでいることを知ることの難しさを問いかけます。
ギュゲスの指輪
ギュゲスの指輪とは、プラトンの著書である『国家』に登場する、誰にも見られてないと、人間は本来悪いことをしてしまうという例え話です。
ギュゲスという羊飼いは洞窟の中で、自由自在に透明人間になれる指輪を手に入れます。
ギュゲスはその指輪を使って数々の悪事を働きます。
そして、最終的には国の王様を殺し、王権を奪うにまで至ってしまうのです。
この物語は、人間は生まれながらに悪人であるとの考えに基づき作られており、 「性悪説」を取り上げるときに利用されます。
ポール・ワイスの思考実験
オーストリアの生物学者ポール・ワイスによって、生命に関しての思考実験が行われました。
ヒヨコを1羽用意します。
そのヒヨコを試験官の中に入れ、完全にバラバラに破砕し、ヒヨコの液体を生成します。
可哀そうですが、ヒヨコは当然死んでしまいます。
実験後にはいったい何が失われたのでしょうか?
双子のクローン赤ちゃん
双子のクローン赤ちゃんとは、人間に自由意志があるのかを問う思考実験です。
クローンの双子の赤ちゃんを作り出します。
この赤ちゃんは2人とも原子レベルで全く同じ構成をしているとします。
それぞれの赤ちゃんを、全く同じ環境で全く同じ刺激を与えて育てます。
その時、双子の赤ちゃんは全く同じ行動をするでしょうか?
もし同じ行動をするのであれば、人間の行動は、生まれながらの遺伝子や環境によって決まることになり、自由意志は存在しないことになります。
パーフィットの分離脳
パーフィットの分離脳とは、イギリスの哲学者であるデレク・パーフィットによって提唱された、自分自身とは何かを問う思考実験です。
テクノロジーが発展し、完全な脳移植とクローンの技術が確立したとします。
そこで、あなたの脳を取り出して、2つに切り分け、それぞれをクローンの体に移植します。
2人のクローンが目覚めると2人ともがあなたの記憶を持っており、あなたの本来とるべき行動をとりました。
どちらが本当のあなたなのでしょうか?
ニューカムのパラドックス
ニューカムのパラドックスとは、数学者であり哲学者でもあるウィリアム・ニューカムによって提示された、未来予知に関する問題です。
ある知的生命体がいて、その生命体は未来を100%の精度で予測することができるとします。
この知的生命体はAとBの2つの箱を用意し、事前に中に現金を入れておきます。
箱Aには現金100万円が入っており、箱Bには0円か1億円のどちらかが入っています。
ここで、あなたには2つの選択肢があり、箱Bの中身を貰うことか、箱Aと箱Bの両方の中身を貰うことが選べます。
ただし、知的生命体は、あなたが箱Bだけを選ぶと予想した場合は、箱Bには1億円を、あなたが箱Aと箱Bの両方を選ぶと予想した場合は、箱Bには0円を入れておきます。
この時、箱Bだけを選ぶか、箱Aと箱Bの両方を選ぶか、どちらが最も多い金額を得ることができるのでしょうか。
カルネアデスの板
カルネアデスの板とは、古代ギリシアの哲学者であるカルネアデスが出題した、自分が生き残るのに必要であれば殺人は正当化されるか、という問いです。
乗客が数人がいた船が難破し、乗っていた全員が海に落ちてしまいます。
乗客だった男の1人は、壊れた船の板を見つけ、何とかそれにしがみついて浮かぶことに成功します。
しかし、もう1人の別の男がその板を見つけ、自分もそこに捕まろうと近寄ってきます。
板に2人が捕まろうとすれば、2人とも沈んでしまうと考えた男は、新たに寄ってきた男を突き飛ばして死なせてしまいます。
この場合、突き飛ばした男は殺人の罪に問われるべきか、というのがカルネアデスの板の問いです。