カルネアデスの板:殺人が許される状況はある?(知的な小話125)

ここでは、日常会話で使える知的な小話と、実際の使用例を紹介します。

カルネアデスの板とは

カルネアデスの板とは、古代ギリシアの哲学者であるカルネアデスが出題した、自分が生き残るのに必要であれば殺人は正当化されるか、という問いです。

乗客が数人がいた船が難破し、乗っていた全員が海に落ちてしまいます。

乗客だった男の1人は、壊れた船の板を見つけ、何とかそれにしがみついて浮かぶことに成功します。

しかし、もう1人の別の男がその板を見つけ、自分もそこに捕まろうと近寄ってきます。

板に2人が捕まろうとすれば、2人とも沈んでしまうと考えた男は、新たに寄ってきた男を突き飛ばして死なせてしまいます。

この場合、突き飛ばした男は殺人の罪に問われるべきか、というのがカルネアデスの板の問いです。

命の重さを天秤にかける類題として、トロッコ問題や臓器くじも有名です。

緊急避難とは

カルネアデスの板は、刑法37条の緊急避難について説明する際によく取り上げられる話です。

自己または他人の生命、身体、自由、財産などに対する現在の危難を避けるため他に方法がない場合に、守ろうとする利益よりも重要性が低いか、または同等の第三者の利益を侵害する行為をいい、刑法上、罪とならない

刑法37条1項

カルネアデスの板では、①自分の命が危険にさらされており、②その他の生き残るための手段がなく、③相手の命という自分の命と同等の利益を侵害しているため、緊急避難に該当すると考えられます。

よって、男は殺人の罪で裁かれることは無いでしょう。

ただし、実際の裁判は様々な状況を考慮して行われるため、自分に危険が迫っていればいつでも他人の命を犠牲にしてもよいという訳ではないので注意が必要です。

正当防衛とは

緊急避難と似た概念として、正当防衛があります。

正当防衛は、ナイフを持った暴漢に襲われた際に抵抗として行った暴行などついては罪に問わないとするような規定です。

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

刑法36条1項

緊急避難と同じように思えますが、違いは相手が不正を働いているかどうかです。

正当防衛は、不正の侵害、つまり悪い人に対して防衛を行った場合に、罪を免除するというルールです。

一方で、緊急避難はカルネアデスの板に見られるように、相手が悪い人でなくともやむを得ずに行った行為に対して罪を免除します。

緊急避難の場合と同様に、正当防衛についても成立の要件は状況に応じて判断されるため、自分に危険が迫っていればいつでも暴力を行ってよいという訳ではありません。

日常会話での使用方法

「おやおや、まるでカルネアデスの板ですね」

「エレベータの定員オーバーで格好つけるなよ」



本サイトで紹介している用語一覧は以下です。



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