ケインズの美人投票とは?大学で体験した「平均の0.7倍」数当てゲーム

0から100まで、好きな数字を一つ選んでください。全員の回答の平均を0.7倍し、その数字に最も近い人が勝ちです。大学のゲーム理論の授業でこの問題が出されたとき、教室は一気に盛り上がりました。計算は簡単なのに、勝つために必要なのは自分以外の人の考えを読むことだったからです。

「自分が好き」と「みんなが選びそう」は違う

ケインズの美人投票は、自分の判断と、他人の判断を予想することの違いを示すたとえ話です。『雇用・利子および貨幣の一般理論』第12章では、100枚の写真から6人を選び、参加者全体の平均的な好みに近い選び方をした人が賞を得る新聞のコンテストが登場します。

このルールでは、自分の好きな顔を選ぶだけでは賞に届かないかもしれません。ほかの参加者が何を選ぶかが重要です。さらに、ほかの参加者も同じことを考えているなら、「みんなが好きな顔」ではなく「みんなが、みんなに選ばれそうだと思う顔」を予想することになります。

例えば、お菓子を一つ投票で選ぶ場面でも、自分が食べたいものを選ぶルールと、最多票になるものを当てるルールでは回答が変わります。前者なら抹茶味が好きだから抹茶。後者なら、教室ではチョコ味を選ぶ人が多そうだからチョコ。質問の形が似ていても、考える対象が違うのです。

ケインズは投資家の期待を説明したかった

ケインズがこの比喩を使ったのは、金融市場で他の参加者の予想を読む行動を説明するためです。自分が企業の将来をどう評価するかに加えて、ほかの投資家が今後どう評価するかを考える。その予想が、また誰かの予想の対象になります。

ただ、企業の利益や将来性が無意味になるわけではありません。「みんなが買いそうな株を買えば必ず勝てる」という売買の公式でもありません。美人投票が照らしているのは、市場の評価には、企業についての判断と、他の参加者への予想が重なり得るという点です。

大学の授業で遊んだ数当てゲーム

私が参加したのは、大学で受けたゲーム理論の最初の授業でした。参加者は200人程度。先生が「勝者は成績を加点する」と言ったので、単なる練習問題ではなく、みんなが本気で数字を考える時間になりました。

ルールは次の通りです。

  1. 全員が0から100までの数字を一つ書く。
  2. 数字は小数点第2位まで書ける。
  3. 全員の回答の平均値を求め、その値を0.7倍する。
  4. 計算結果に最も近い数字を書いた人が勝つ。

5人だけの例なら、計算はこうなります。

参加者選んだ数字
A10
B20
C30
D40
E50

平均は(10+20+30+40+50)÷5=30。目標は30×0.7=21なので、この組み合わせでは20を書いたBが勝ちます。選ぶべき数字は、ほかの人が何を書くかによって変わります。

35、24.5、17.15……予想の階段を降りていく

「みんなの数字は、だいたい0から100に散らばって平均50になりそう」と仮定したら、目標の予想は35になります。ただし、平均50は最初に置いた仮定です。何も考えない参加者が必ず平均50を作るわけではありません。

そこで、ほかの人も35を考えるのでは、ともう一段先を読みます。もし全員が35を書くなら、目標は24.5。さらに全員が24.5を書くなら、目標は17.15です。

仮定した回答の平均その0.7倍
5035
3524.5
24.517.15
17.1512.005

この考え方を続けると、数字は0に近づきます。数字を連続的に選べる理想化したルールでは、全員が0を選ぶ状態が均衡になります。全員の数字が0なら目標も0で、自分だけ別の数字にしても勝ちにくい状態です。

一方、実際の教室では、全員が同じ段数まで考えるとは限りません。35を選ぶ人も、もっと下まで読む人も、直感で好きな数字を書く人もいます。理論上の行き先を知ることと、その場で勝つ数字を予想することは、別の課題になります。こうした思考の段階を調べた研究に、ナゲルの1995年の数当てゲーム実験があります。

勝者の数字は12.19だった

私が出席した授業で、勝者が書いていた数字は12.19でした。どうやって選んだのかは聞いていません。私は勝てませんでしたが、自分が考えている間に、ほかの人もこちらと同じように考えている。その感覚を体験できたのが、とても面白かったです。

「もっと考えた人ほど必ず勝つ」とも言えません。周囲の多くが35付近を書く場で、自分だけ0を選んでも、目標から離れる可能性があります。勝敗は考えた段数だけでなく、その場の回答の分布にも左右されます。数字が小さいことを、そのまま知能の高さと結びつけるのも早計でしょう。

友人と試すなら、回答は同時に出す

このゲームは紙とペンだけで遊べます。数字の範囲、倍率、同点の場合の扱いを先に決め、全員が回答を書いてから一斉に出すと、途中で相手に合わせることなく試せます。

答え合わせのあとには、「なぜその数字にしたか」を聞く時間を設けると面白くなります。平均を予想した人、友人の性格から考えた人、0が理論上の候補だと知っていた人。同じルールでも、考え方は驚くほど違うはずです。2回目には、1回目の結果を知ったことで予想がどう変わるかも見えてきます。

ゲーム理論の面白さは、数字を計算するだけでなく、相手も考えている世界を扱えるところにあります。選択が互いに影響する別の例として、囚人のジレンマや、集団の意見が本音からずれていくアビリーンのパラドックスも読んでみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です