同じ問題に答え続けるうちに、「そもそも、この問題の立て方でよかったのか」と気づくことがあります。パラダイムシフトは、答えを少し修正するだけでなく、何を当然と考えるかという枠組みが変わることです。
目次
パラダイムとは、考えるための共通の枠組み
科学史家トーマス・クーンは、1962年の『科学革命の構造』で、科学の発展を単純な知識の積み上げとして捉える見方を問い直しました。研究者が共有する考え方や手本のもとで研究が進み、その枠組み自体が転換することに注目したのです。シカゴ大学出版局『科学革命の構造』
枠組みには「どんな問題を解くべきか」「どの方法を使うか」「何をよい説明と認めるか」も含まれます。つまり、パラダイムが変わると、同じ観測結果の意味や、研究の進め方まで変わり得ます。
普通の改善と、何が違うのか
たとえば架空のゲームで、プレイヤーが説明を読まずに失敗する場面を考えてみましょう。
| 考え方 | 対策 |
|---|---|
| 説明文を読めば遊べるはず | 文字を大きくし、説明を詳しくする |
| 最初の操作そのものから、遊び方がわかるようにしよう | 最初にできる操作を絞り、触ると結果が返る場面を作る |
前者は、同じ前提の中での改善です。後者では「説明を読むことを入口にする」という前提を見直しています。これは日常的な発想の転換の例であり、クーンの科学革命と同じ規模の出来事だという意味ではありません。違いを見るための比喩です。
新しい色を使った、機能を増やした、というだけでは、考える枠組みまで変わったとは限りません。変化の派手さよりも、何を前提にしていたかが変わったかを見ると、この言葉を具体的に使えます。
枠組みの中で進む「通常科学」
クーンのいう通常科学は、共有された枠組みのもとで、観測を精密にしたり、理論を具体的な問題に適用したりする研究です。既存の考え方を使って未解決の問題を解く仕事にも、大きな意味があります。『科学革命の構造』第三章・通常科学の性質
道路の地図が役立っている間は、道を詳しく調べ、抜け道を追加すればよいでしょう。地図を毎日作り直すより、同じ地図を共有して改善するほうが進めやすい。この地図の例は、枠組みを共有する利点を考えるためのものです。
説明できない結果が出たら、すぐ革命?
予想に合わない結果が一つ見つかっても、すぐに枠組み全体を捨てるとは限りません。測り方の問題かもしれませんし、既存の理論の中で解ける課題かもしれません。うまく説明できない現象が重要な問題として残り、別の枠組みが何を説明できるかが問われていきます。
ここで大切なのは、「例外があったから全部間違い」と「長く使っているから絶対に正しい」の両方を避けることです。問題の重みと、新しい説明の働きを比べる必要があります。
日常のアイデアでも同じように、「前提を変えよう」と言うだけでは足りません。別の考え方で、具体的に何がうまく説明でき、何が改善するのかを確かめると、発想が形になります。
使ってみるなら、三つの質問
- 今まで、何を当然と考えていた?
- その前提で、どんな問題が残っている?
- 前提を変えると、何を成功と評価するようになる?
先ほどのゲームなら、成功の基準が「説明を全部読んだ」から「最初の操作で遊び方が伝わった」に変わります。何を変えたかまで言葉にできると、パラダイムシフトという大きな言葉が、実際の判断につながります。
あわせて読む:ゲームのルールを、最初の操作で伝えるには/確証バイアス
パラダイムシフトと、枠内の改善
| 場面 | 枠内の改善 | パラダイムシフトを考える問い |
|---|---|---|
| 天体の動きを説明する | 同じ基本像のもとで予測を精密にする | 何を中心に、どんな原理で説明するかが変わる |
| 架空のゲームの設計 | 既存ルールで待ち時間を短くする | 競うこと自体をやめ、協力を中心にする |
後半は発想の違いをつかむ比喩です。ゲームの変更が、そのままクーンの科学史の議論に該当するわけではありません。何が変わったかを「大きな改善」の一語で済ませず、基準や問いまで比べます。
