グレシャムの法則とは?「悪貨は良貨を駆逐する」を二つの硬貨で考える

財布に二枚の硬貨があります。一枚は銀をたくさん含み、もう一枚は銀が少ない。それなのに、お店ではどちらも同じ金額として使えます。あなたなら、どちらから支払うでしょうか。

グレシャムの法則とは

グレシャムの法則は、価値の違う貨幣が同じ交換価値で使えるとき、価値の低い方が支払いに使われ、価値の高い方が流通から退きやすいという考え方です。「悪貨は良貨を駆逐する」という言い方で知られています。

ここでいう良い・悪いは、人の善悪ではありません。金属の価値などに対して、交換のときにどんな扱いを受けるかという話です。高く評価できる硬貨を取っておき、同じ支払いを安い方で済ませる動きが、流通する硬貨の顔ぶれを変えます。

貨幣の素材を減らす改鋳と、どんな条件で法則が成り立つかは、シカゴ連邦準備銀行の研究論文でも扱われています。名前を覚えるより、「なぜ手元に残す方が得なのか」を考えると、仕組みが見えます。

架空の100円硬貨で、流れを追ってみる

説明のため、次の二種類がどちらも100円の支払いに使える世界を考えます。現実の日本の硬貨の素材価格についての話ではありません。

硬貨お店で使える額含まれる金属の価値
A100円120円相当
B100円60円相当

100円の物を買うのにAを出しても、Bを出しても、受け取れる物は同じです。ならば、金属として価値の高いAを残して、Bで支払いたくなります。

  1. 人々がAを取っておき、Bを支払いに使う。
  2. Bを受け取った人も、次の支払いにBを使う。
  3. 日々の買い物で目にするのは、Bが多くなる。

Aが消滅したわけではありません。保管されたり、別の用途や別の市場へ移ったりして、普段の支払いでは見かけにくくなる、という意味です。

「同じ金額として使える」が大事な条件

もしお店がAなら120円分、Bなら60円分の商品を渡すなら、さきほどの理由でBだけを使ううまみはありません。二枚の違いが、取引の値段に反映されるからです。

つまり、価値の違いがあるのに、交換では同じ扱いを受けることが、説明の中心にあります。「質の悪い物があると、質の良い物は必ず負ける」という、あらゆる競争の法則ではありません。

商品なら、性能や修理のしやすさを見て、高い方を選ぶ人もいます。安い物が売れているという事実だけで、グレシャムの法則と呼ぶと、肝心の交換条件が抜けてしまいます。

腐ったミカンの話とは、何が違う?

箱の中で腐ったミカンから周囲へ傷みが広がる、という比喩は、集団の問題を語るときにも使われます。でも、グレシャムの法則では、悪貨が良貨の金属を変質させているわけではありません。人がどちらを使うか選ぶことで、流通の偏りが生まれています。

さらに、人をミカンのように扱うと、その人がなぜ問題を起こしたか、どうすれば変われるかが見えなくなります。行動の影響を考えることと、本人を「腐っている」と決めることは別です。

私自身、学生時代に部活をサボってばかりいたら、「悪貨は良貨を駆逐する」という理由で、辞めさせられそうになったことがあります。周囲への影響を心配されたのだと思いますが、貨幣の法則をそのまま人に重ねられるのか、今も考えさせられる言葉です。

比喩を使うなら、仕組みまで確かめる

たとえば、雑な作業も丁寧な作業も同じ評価なら、丁寧にする動機が弱くなるかもしれません。これは法則を連想させる例ですが、考えたいのは誰を悪貨と呼ぶかではなく、何が評価される仕組みなのかです。

印象の強い言葉ほど、説明を一気に終わらせてしまいがちです。「悪貨は良貨を駆逐する」と聞いたら、何に価値の差があり、なぜ同じ扱いになるのかを問い直す。そのひと手間で、決めつけよりも、直せる条件が見えてきます。人への名前の影響については、ラベリング理論の記事でも考えています。

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