宝くじが当たったら、仕事を減らす、旅行に行く、好きなものを作る。そんな想像をする時間には楽しさがあります。一方で、お金を増やす方法として見ると、宝くじは厳しい選択です。この二つは両立します。期待値と期待効用を分けると、その理由が見えてきます。
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期待値は、確率で重みをつけた平均
期待値は、それぞれの結果に確率を掛けて足した値です。公平なコインを投げ、表なら100円、裏なら0円もらえる架空のゲームなら、受け取る金額の期待値は次の通りです。
100円×1/2+0円×1/2=50円
参加費が75円なら、純利益の期待値は50円−75円=−25円。受け取る金額が平均50円ということと、利益が50円ということは違います。戻ってくる金額と、支払いを差し引いた損益を分けましょう。
このゲームの還元率は50÷75で約66.7%です。繰り返すたびに手元の資金が必ず66.7%になる、という意味ではありません。当たり方で実際の損益は変わり、平均として支払いに対してどれだけ戻るかを表しています。
宝くじの当せん金は、売上より少ない
宝くじ公式サイトの令和6年度の内訳では、販売実績額の46.5%が当せん金に充てられています。これは全国の年度全体の内訳であり、特定の商品や一枚ごとの当選確率を表す数字ではありません。
一つのくじの期待値を計算するなら、全等級の当せん金と本数、販売単位、購入価格を確認します。一等だけを見て「当たれば大きい」と判断したり、外れたあとの連続購入で損を取り戻せると考えたりしても、計算上の不利が消えるわけではありません。
期待値の基本を別の角度から読むなら、『黒いマヨネーズ』と期待値の記事もどうぞ。
同じ金額でも、価値は同じとは限らない
喉がからからのときに飲む一杯目のレモネードと、十分に飲んだあとの五杯目。価格が同じでも、欲しさは違います。一単位増やしたときの満足が小さくなることを、限界効用の逓減と呼びます。
お金でも、生活に必要な少額と、すでに大きな資産がある人にとっての同じ額では、重みが違い得ます。効用は、こうした結果への好みを表す指標です。脳の幸福度を直接測った数値や、誰にでも共通する喜びの単位とは限りません。
だから「金額が2倍ならうれしさも2倍」「300円なら誰でも痛くない」とは決められません。生活の状況と、何に価値を感じるかが違うからです。
期待効用も、確率を掛けて考える
期待効用は、金額ではなく各結果の効用を、確率で重みづけして足したものです。意思決定理論の解説では、結果に付けた効用と確率を使って、選択肢を比較する枠組みとして説明されています。
大切なのは、買った場合と買わなかった場合を、同じ基準で比べることです。もとの資産をW、価格をc、当せん金をx、当たる確率をpとする、当たりと外れだけの単純な仮のくじなら、
買う場合:p×u(W−c+x)+(1−p)×u(W−c)
買わない場合:u(W)
を比較します。uは、その資産額にどんな価値を置くかを表す関数です。「当たった喜びを確率で割って、購入費の気分と比べる」だけでは、外れた場合やもとの資産を同じ物差しで扱えていないことがあります。
限界効用が減るなら、くじが有利になるのか
ここは誤解しやすいところです。資産が増えるほど追加のお金の価値が小さくなるモデルなら、それだけで、低い金額の期待値を持つくじが有利になるわけではありません。むしろ、同じ平均額なら確実な結果を好む方向に働きます。
例として、資産の効用を平方根で表す仮のモデルを使います。確実に100を持つなら効用は√100=10。50%で200、50%で0になるなら、金額の平均は同じ100ですが、期待効用は(√200+√0)÷2で約7.07です。
この関数がすべての人の好みを表すわけではありません。ただ、「期待値より効用が重要だから、宝くじは得だ」という結論は自動的には出ないことが分かります。
「夢を買う」は、当せん金とは別の楽しさ
それでも、宝くじを買う行為を金額の期待値だけで一括して馬鹿にするのは、少し乱暴だと思います。抽選までの想像や、家族と使い道を話す時間に価値を感じる人もいるでしょう。その価値は、当せん金が増えることとは別です。
たとえば、映画やゲームに使ったお金は、通常そのまま現金では戻りません。それでも体験に満足すれば、使う理由があります。同様に宝くじを娯楽として捉えるなら、「儲かるか」だけでなく、「その楽しさに、他の使い道よりこの支払いを選ぶか」を考えられます。
ただし、楽しむ価値があることは、生活に必要なお金を使ってよい根拠にはなりません。小さな支出でも回数が増えれば大きくなります。自分にとって負担のない範囲か、他の楽しみと比べてどうかを、総額で見る方が判断しやすくなります。
数字と、自分の目的を一緒に見る
- お金を増やす目的なら、支払いを差し引いた期待値を見る。
- 結果の価値を比べるなら、確率と自分の状況を含めて考える。
- 娯楽なら、体験の楽しさと総額、ほかの使い道を比べる。
私が期待効用という視点に感じる面白さは、人の選択を「平均で儲かるか」だけで片づけずに考えられるところです。その一方で、効用という言葉は計算を免除してくれるものではありません。何を得ようとしているのかをはっきりさせるほど、数字も自分の好みも、役に立つようになります。

