ここでは、日常会話で使える知的な小話と、実際の使用例を紹介します。
ラプラスの悪魔とは
ラプラスの悪魔とは、フランスの哲学者ラプラスによって提唱された、この世界の全てを知る超越的な生き物です。
例えば、サイコロを振った瞬間に、その力の向きや勢い、落下地点の状態など、全ての情報がわかれば出る目も計算可能です。
私たちが生きるこの世界の物質は、全て原子で構成されているため、サイコロの例の規模を拡大すれば、未来の予測は、この世界全体にも当てはまります。
つまり、この世界の全ての原子の位置と運動量を知ることのできる知性が存在するとすれば、その存在はこの世界の未来を見通すことができると言えるでしょう。
その存在を、ラプラスの悪魔と呼んでいます。
逆に言えば、ラプラスの悪魔という存在を仮定できるなら、未来は既に決定していると言えます。
私たちがこの後何を考え、どんな行動をするかも、既に決まっているのです。
あなたが今「そんな訳はない/そうだったら怖い」と考えたことも、宇宙が誕生した瞬間から決まっていたのかもしれません。
シュレディンガーの猫と量子論
この話は、未来は過去の積み重ねの結果であり、既に決まっているとする「決定論」の概念を語る時によく使用されます。
この世の物質の全てが原子で構成されていて、その動きを全て把握できるという前提において、この理論は正しいように思えます。
しかし、20世紀になると、この前提自体が怪しいものになりました。
かつて物質の最小単位だと考えられていた原子より、さらに小さな単位である量子の存在が発見されたのです。
しかもこの量子は、粒子としての性質と、波動としての性質と併せ持っており、その動きは観測するまで未確定であるとされています。
「シュレディンガーの猫」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
シュレディンガーの猫とは、量子が2通りの動きを未確定のまま併せ持つことを、半分死んで、半分生きている猫に例えたものです。
このように、量子は、一般的な感覚からは想像もつかないような性質を持っており、動きを事前に予測することはできないとされています。
つまり、ラプラスの悪魔の「この世の物質の状態と動きを全て把握できる」という理論の根幹が崩れかかっているのです。
未来が決まっているとなると、自分の意思や行動にも何の意味も無いことになります。
「決定論」は嘘であり、自分の行動によって未来が変わっていく世界の方が面白いですね。
ラプラスの悪魔と自由意志
ラプラスの悪魔に関する議論は、自由意志の問題にも関連しています。
もし未来がすでに決定されているのであれば、私たちの意思や選択は実際には自由ではないのかもしれません。
これは、自由意志という概念に対する疑問を投げかけ、哲学や心理学、神経科学などの分野で議論が続いています。
一方で、量子力学が未来の不確定性を示唆することから、未来が確定されていないという見方もあるため、自由意志の存在を支持する立場もあります。
この立場では、私たちの意思や選択は未来を形作る力を持っており、自由意志は現実のものであると考えられています。
ラプラスの悪魔と情報理論
情報理論の観点からも、ラプラスの悪魔は興味深いトピックです。
情報理論は、情報の量や伝達、処理に関する理論で、コンピュータ科学や通信技術などの分野で重要な役割を果たしています。
ラプラスの悪魔は、全ての情報を知り、未来を予測する能力を持つとされているため、情報理論の観点からは、ラプラスの悪魔の存在は理論上可能かどうかという問いが生じます。
しかし、量子力学の発見により、情報の取得や処理にも限界があることが示唆されています。
例えば、ハイゼンベルクの不確定性原理は、同時に粒子の位置と運動量を正確に測定することはできないという原理です。
これにより、ラプラスの悪魔が全ての情報を持つことは理論上困難であることが示されています。
ラプラスの悪魔の影響
ラプラスの悪魔は、哲学や科学、文化に大きな影響を与えてきました。
例えば、小説や映画などのフィクションでは、ラプラスの悪魔のような存在が登場し、物語の展開や登場人物の運命に影響を与えることがあります。
また、多くの作品では、ラプラスの悪魔をめぐる議論が、登場人物たちの自由意志や運命について考えさせるきっかけとなっています。
科学的な観点からも、ラプラスの悪魔は現代の物理学や情報理論に影響を与えています。
例えば、カオス理論は、初期条件に敏感に反応する現象を扱っており、ラプラスの悪魔が持つとされる完全な知識が実際には得られないことを示唆しています。
また、量子コンピュータは、量子力学の性質を利用して情報処理を行う新しい技術であり、ラプラスの悪魔のような未来予測の能力に関連する研究が進められています。
まとめ
ラプラスの悪魔は、科学や哲学、文化に大きな影響を与えてきた概念であり、今日も多くの分野で議論や研究が続いています。
ラプラスの悪魔が示唆する未来の予測可能性や自由意志の存在については、量子力学やカオス理論、情報理論などの新しい知見が、従来の考え方に変化をもたらしています。
これからも、ラプラスの悪魔をめぐる議論は、科学や哲学の進展とともに続いていくでしょう。
そして、私たち自身も、自由意志や未来の予測について考える機会を与えられることで、より深い理解を得ることができるでしょう。
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