サルがタイプライターをでたらめに叩き続けたら、いつかシェイクスピアの作品ができる。無限のサル定理は、そんな驚く話として知られています。ただし、現実のサルの文学的な才能ではなく、条件を決めたランダムな文字列の数学です。
目次
サルは、ランダムに文字を出す装置の役
有限個のキーがあり、それぞれの文字が正の確率で選ばれ、毎回の選択が独立であるとします。この操作を無限に続ければ、指定した有限長の文章が、確率1でどこかに現れるというのが中心の内容です。
ダラム大学の確率論の講義資料でも、独立した文字のブロックを使って説明されています。無限匹のサルでなくても、一つの装置が無限に文字を出す設定で考えられます。
まず、「CAT」が出る確率を計算する
26個の英字から、毎回同じ確率で一文字を選びます。三文字がちょうどCATとなる確率は、(1/26)×(1/26)×(1/26)=1/17,576です。
一回ではかなり小さい確率です。しかし、三文字ずつ独立に作る試行を繰り返すと、出ない確率が下がっていきます。三文字の一組がCATになる確率をpとすると、N組で一度も出ない確率は(1−p)Nです。
したがって、少なくとも一回出る確率は、1−(1−p)N。Nを無限に大きくすると、出ない確率はゼロへ近づき、出る確率は1へ近づきます。
長い文章でも、同じ形で考えられる
使う文字がk種類で、各文字を等確率で選び、文章の長さがL文字なら、一つのL文字の組が指定した文章と一致する確率はk−Lです。
文章が長いほど、確率は急激に小さくなります。空白や句読点を含む小説を考えるなら、それらも出せるキーに含める必要があります。使えない文字を含む文章は、何度繰り返してもできません。
無限に試せるという条件が、小さな正の確率を扱える理由です。「無限があれば、どんな設定でも何でもできる」という意味ではありません。
「確率1」と、期限つきの保証は違う
数学で確率1ということは、すべての可能な文字列で必ず成立する、ということとは区別されます。Aだけを永久に出し続ける列のように、指定した文章が現れない列も記述できます。ただし、この独立なランダム選択のモデルでは、そのような失敗全体の確率がゼロになります。
さらに、確率1でいつか現れることと、現実に使える期限までに現れることは違います。有限回では、一度も現れない確率が残ります。
先ほどの三文字の例でも、100組だけなら、CATが出る確率は1−(1−1/17,576)100、約0.57%です。「何度も試した」という感覚だけでは、十分な回数かどうかは分かりません。
生命の誕生を、そのまま証明する話ではない
文字の選択では、キーの種類や確率を先に決められます。生命の誕生へ話を移すには、何を一回の試行とし、どんな条件で、何が起こる確率を計算するのかを決める必要があります。
「長い時間があった」だけでは、その条件や確率が分かりません。また、長い有限の時間と、数学上の無限も違います。時計の部品を水で混ぜる比喩だけで、生命が生まれる確率を計算できるわけでもありません。
ランダムな出力と、作品を作ること
偶然ある文章が出ることと、その文章を理解し、良い作品として選び、必要に応じて直すことは違います。無限のサル定理は、前者についての話です。
ゲームの問題を作るときも、候補をランダムに大量生成するだけでは、面白さや解きやすさまで決まりません。正解があるか、表現が曖昧でないか、遊んだときに発見があるかを確かめる段階が必要です。
無限のサル定理は、偶然の可能性を広げて見せる一方で、現実の時間と選ぶ仕組みの大切さも見せてくれます。「いつかできる」と「限られた条件で作れる」の間には、大きな距離があるのです。
確率1と、例外を論理的に排除すること
無限回の模型では、起こらない列を記述できることと、その列の集合に正の確率があることは別です。一方、有限回の試行なら出ない確率が残ります。三つの意味を使い分けると、「必ず」という言葉の行き過ぎを避けられます。
| 表現 | 何を言っているか | 残る区別 |
|---|---|---|
| 確率1で起きる | 例外の集合の確率が0 | 例外が論理的に存在しないとは限らない |
| すべての列で起きる | 例外がない | 確率1より強い主張 |
| 有限の期限内に起きる | 時間・回数を限定した主張 | 別途その確率を計算する |
