進路や働き方を、今すぐ一つに決められない。そんな期間を、モラトリアムという言葉で説明することがあります。もともとは猶予や一時的な停止を表す言葉です。心理学では、自分のあり方や役割を探る時間に関わる概念として使われます。
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モラトリアムの基本的な意味
一般的には、何かを実行するのを一時的に延期したり、停止したりすることを指します。何が猶予されるかは文脈によって異なるため、文章で見かけたら、まず対象と条件を確認すると読みやすくなります。
心理学の文脈では、アイデンティティを形成する過程で、役割や価値観を探り、まだ一定の選択に落ち着いていない状態が話題になります。APAの心理学辞典にも、この文脈のモラトリアムが収録されています。APA心理学辞典「moratorium」
「探す」と「決める」は、別の動き
ジェームズ・マーシャは、エリクソンのアイデンティティの考え方をもとに、いくつかの状態を区別する研究を進めました。研究を振り返る本人の文章では、選択を自分で行った人、親の方針に従った人、答えを探して苦闘している人などを分けて考えたことが語られています。マーシャによる研究の回想
ここから、まだ決めていないという結果だけで、人の状態をひとまとめにできないことが見えてきます。いくつかの可能性を調べているのか、考える材料がないのか、決めたくても条件が整わないのかでは、次に必要なことが違うでしょう。
進路選びの例で考える
次は理解するための架空の例です。二人とも、将来の仕事をまだ決めていないとします。
| 今の様子 | 見えていること |
|---|---|
| 気になる仕事を調べ、短い制作や見学を試している | 自分に合う条件を探している |
| 選択肢がわからず、何から始めるかも決められない | まず情報や相談の機会が必要かもしれない |
「未決定」という一語では、この違いが隠れます。試す期間を置くなら、何を試して、そこから何を知りたいかまで考えると、時間の使い方が具体的になります。
猶予期間を、探索のために使う
たとえばアプリ開発に興味がある人が、いきなり一生の仕事と決める前に、小さなゲームを一つ作ってみるとします。完成までに、絵を描く、ルールを考える、コードを書く、遊んでもらうなど、異なる作業を経験できます。
「開発者になりたいか」という大きな問いだけでなく、「どの作業を続けたいか」「何を学ぶ必要があったか」「どんな助けがあると進められたか」を振り返る材料が増えます。
試す前に、全部の答えを持つ必要はありません。何を確かめるための試みかが見えていれば、まだ決めていない期間にも役割を持たせられます。
「大人になれない人」と決めつけない
日常では「モラトリアム人間」という言い方が批判的に使われることがあります。しかし、就職していない、進路を変更した、迷っている、といった外から見える状況だけで、人格や成熟の程度を決めるのは早計です。
健康、家族の事情、働く条件、学ぶ機会など、選択に関わる事情は人それぞれです。「何歳までに決めるべきだ」と一律に線を引くより、本人が何を望み、何が障害になっているかを見たほうが、話し合いを進めやすくなります。
区切りを付けるなら、確認することを決める
- 今、候補にしているものは何か。
- まだ知らない条件は何か。
- 期間の中で、何を試せるか。
- 試したあと、誰と、何を振り返るか。
「来月には人生を決める」より、「来月までに二つの作業を経験して、続けたい点と困った点を整理する」のほうが、取り組み方を考えやすいでしょう。猶予を、答えを出さない時間ではなく、答えを考える材料を得る時間として捉えられます。
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