答えは明らかにBに見える。でも、先に答えた人が全員Aと言っている。自分だけ違う答えを口にするのは、思ったより難しいかもしれません。アッシュの同調実験は、そんな場面を線の長さで作りました。
アッシュの同調実験とは
アッシュの同調実験は、周囲の人が一致して間違った答えを言うとき、人が自分の判断をどのくらい変えるかを調べた実験です。心理学者ソロモン・アッシュが1950年代に行いました。
課題は、基準となる一本の線と同じ長さの線を、三本の中から選ぶこと。難しい知識は要らず、一人で判断すれば間違いが少ない問題です。ただ、同じ部屋のほかの参加者は、実はあらかじめ指示を受けた協力者でした。指定された回では、全員が同じ誤答を口にします。
本当の参加者は、ほかの人の答えを聞いてから、自分の答えを声に出します。比べているのは視力の良し悪しよりも、『目で見た判断』と『周囲の全員一致』が食い違うときの反応です。

『約3分の1』と『約75%』は何が違う?
アッシュ自身の1955年の記事では、123人を対象にした条件で、周囲の誤答に合わせた回答は36.8%でした。一方、最後まで誤答に合わせなかった人は約4分の1です。
| よく紹介される数字 | 数えているもの |
|---|---|
| 約3分の1(36.8%) | 集団が誤答した回で、誤答に合わせた回答の割合 |
| 約75% | 少なくとも一度は誤答に合わせた参加者の割合 |
『75%の人が毎回だまされた』という意味ではありません。人によって反応が違い、同じ人でも回によって変わります。特定の学生が、決められた課題と条件で答えた結果であり、あらゆる集団の同調率を示す数字でもありません。
一人でも違う答えを言う人がいると
アッシュは条件を変え、正しい答えを言う仲間がいる場合も調べました。すると、全員が誤答する場合よりも同調が減りました。人数が多いことだけでなく、『自分だけが違う』という状況が重要な手掛かりになります。
同調には、『周りの方が正しく、自分が見間違えたのかも』という迷いと、『違うことを言って浮きたくない』という気持ちの両方が考えられます。声に出した答えが変わったからといって、内心の見え方まで全員同じように変わったとは限りません。
会議やゲームの感想を集める工夫
例えば、アプリの試作品を三人に遊んでもらい、最初の人が『簡単で面白い』と言ったとします。残りの人が違う感想を持っていても、続けて同じことを言いやすくなるかもしれません。
そこで、話し合う前に各自が感想を書く時間を取ります。『面白いですか』だけでなく、『どの画面で迷ったか』『説明なしでできた操作は何か』と、具体的な体験を尋ねるのもよい方法です。人に合わせることより、自分が見た事実を伝えやすくなります。
- 他人の答えを見る前に、自分の判断を一度残す。
- 最初の意見を結論扱いせず、違う見方を尋ねる。
- 意見の人数だけでなく、その根拠を確かめる。
みんなと同じ答えが、いつも間違いというわけではありません。周囲の情報を役立てながら、自分の判断も持ち寄れる環境を作る。それが実験から考えられる実用的な問いです。発言しづらい空気の広がりについては、沈黙の螺旋も併せて読めます。
