ニュースは、起きたことを伝えるだけでなく、読んだ人が『自分にはどんな選択肢があるか』を考える材料にもなります。ウェルテル効果は、自殺の報じ方が人に与える影響を考える言葉です。大切なのは、話題を隠すか広めるかの二択より、何をどう伝えるかです。
ウェルテル効果とは
ウェルテル効果は、自殺に関する報道や情報が広まった後に、自殺の増加が見られる現象を指します。社会学者デイヴィッド・フィリップスの1974年の研究で知られるようになりました。名称は、ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』に由来します。
ただし、ニュースを見た人全員が同じ影響を受けるわけではありません。また、一人が亡くなった理由を、特定の記事だけで決めることもできません。個人の事情と、社会全体で観察する増減は、分けて考える必要があります。
『報道しない』だけでは捉えきれない
報じ方によっては、亡くなった人への強い同一視を促したり、自殺を問題解決の選択肢のように見せたりするおそれがあります。一方、相談や支援を知る情報、困難を乗り越える過程を伝える情報には、別の働きが考えられます。
WHOの2023年版の手引きは、報道が自殺予防を弱める場合と、後押しする場合の両方を扱っています。『報道の存在』だけでなく、内容、見出し、繰り返し方、届く人を考えるのが重要です。
希望や回復を伝えるパパゲーノ効果
パパゲーノ効果は、危機の中で別の対処法や助けを見つけた人の話が、自殺予防につながる可能性を表す言葉です。モーツァルトのオペラ『魔笛』の登場人物に由来します。
ニーダークローテンターラーらの2010年の研究は、オーストリアの新聞記事497本の内容と、その後の自殺率の変化を分析しました。危機に別の方法で対処した人を描く記事は、自殺の減少と関連していました。すべての希望を語る記事が同じ効果を持つという保証ではありませんが、情報の伝え方を考える手掛かりになります。
『気合いで乗り越えた』と結論だけを書くより、どんな支えや選択肢があったかを伝える。読む人が、自分にも利用できる助けを見つけられることに意味があります。
WHOの指針から、共有前に考えたいこと
手引きの日本語版では、具体的な方法や場所の描写、刺激的な見出し、原因を一つに決める説明などを避けるよう示しています。また、相談先や、困難に対応する方法を伝えることが勧められています。
- 詳しさは誰の役に立つか:読者の理解より、衝撃を強めるための情報になっていないか。
- 一つの原因に決めていないか:憶測を、本人の事情として広めていないか。
- 別の選択肢が見えるか:支援や回復への道も伝わるか。
これは新聞やテレビだけの話ではありません。SNSで見出しを引用するときや、ブログで感想を書くときも、元の記事にない憶測を足したり、衝撃的な部分だけを繰り返したりしないことを考えられます。
読む人のために、何を届けるか
『知らせたい』と思ったとき、読者が知ることで何を判断できるのかを一度考えてみます。刺激の強い詳細より、困っている人が一人で抱えなくてよいと分かる情報を届ける。その選択も、情報発信の一部です。
相談先を探すときは、厚生労働省『まもろうよ こころ』に、電話やSNSで利用できる窓口がまとめられています。
