自分で組み立てた棚や、時間をかけて書いた文章には、特別な愛着が湧くことがあります。ほかの人には同じように見えても、自分には少し良く見える。自分が手をかけたものを高く評価する傾向は、イケア効果と呼ばれます。
目次
イケア効果の意味
イケア効果は、自分で作ることに労力をかけた品物の価値を、高く見積もる傾向です。組み立て式の家具で知られるIKEAにちなんで名付けられました。自作なら何でも品質が上がる、という意味ではなく、作り手側の評価に注目した言葉です。
「ここを自分で直した」「うまくはまらず苦労した」という記憶は、完成品を眺めるだけの人にはありません。ものの価値を考えるとき、出来栄えと、自分が関わった経験が重なって見えることがあります。
収納箱、折り紙、レゴで調べた研究
ノートン、モション、アリエリーによる2012年の論文では、IKEAの収納箱、折り紙、レゴを使って、自分で作ったものへの評価を調べています。収納箱の実験では、組み立てた人のほうが、完成品を見た人よりも高い金額を払おうとしました。
折り紙では、作り手は自分の作品を高く評価し、ほかの人も同じように評価するだろうと考える傾向が見られました。さらに、完成できなかった場合や、組み立てたものを崩した場合には、価値の上昇が見られなくなりました。
この研究で注目されたのは、苦労の量だけでなく、自分で完成させることです。手間を増やせば愛着も際限なく増える、とは読めません。
愛着は、ものづくりの力にもなる
愛着があるから手入れを続ける、仕上げを工夫する、もう一つ作ってみる。そうした方向に働くなら、自作の楽しさは大きな力になります。出来栄えを点数で比べるだけでは、ものづくりの面白さは捉えきれません。
たとえば手作りのカードは、印刷が少しずれていても、そのカードを作った時間に価値を感じられます。「市場で高く売れるか」と「自分にとって大切か」は、違う問いです。自分が気に入っていることまで、間違いだと扱う必要はありません。
アプリや文章では、作り手と利用者の目を分ける
作品を人に使ってもらう場合には、もう一つの目線が必要になります。作り手は、苦労して実装した機能を詳しく知っています。初めて使う人は、その苦労を知らず、画面にある情報だけで操作します。
たとえば、作るのに一週間かかった演出があっても、利用者にとっては結果を見るまでの待ち時間かもしれません。「作るのが大変だった」と「遊ぶのが楽しい」は、別々に確かめたいところです。文章でも、書き手には前提がわかっているため、説明の抜けに気づきにくいことがあります。
作品を見直すための具体的な方法
- 目的を先に決める:文章なら「初めて読む人が用語を説明できる」、ゲームなら「説明なしで最初の一問を始められる」など、確かめたいことを一つ置きます。
- ほかの人に使ってもらう:感想だけでなく、止まった場所や迷った操作を見ます。
- 説明を足す前に観察する:すぐに横から教えると、画面だけで伝わったかがわからなくなります。
- 時間を置いて読み直す:制作中の記憶から少し離れ、冒頭から順番に確かめます。
指摘を受けたら、まず「どこでそう感じたか」を聞くと、好き嫌いの言い合いよりも修正する場所が見つかりやすくなります。
サンクコストとは、どこが違う?
イケア効果が、自分の作ったものへの評価に注目するのに対し、サンクコストの問題は、すでに使った時間や費用に引っ張られて、これからの判断が変わることです。似た場面で起きても、焦点は異なります。
「この作品は自分にとって大切だ」と思うことと、「時間をかけたから、この機能は絶対に削れない」と判断することを分けると、愛着を持ちながら改善できます。大切に作ったからこそ、初めて触る人に届く形も考えてみたいものです。
制作を続けるかの判断はコンコルド効果、操作説明の作り方はゲームのルールとチュートリアルの設計も参考になります。
完成の条件と、「できた」という感覚
原研究では完成できたかが重要でした。続くMochonらの研究(2012)は、組み立てで得る有能感と価値評価の関係を検討しています。これは「苦労を増やせば必ず価値が上がる」という主張ではありません。
自作アプリを例にすると、「作り切れてうれしい」「初めて使う人にも操作しやすい」「有料でも使いたい」は別の評価です。作者の愛着は残したまま、初見の人に説明なしで一つの操作をしてもらい、どこで止まるかを観察できます。作者が感じる達成と利用者の使いやすさがずれていても、どちらかの感想が偽物ということにはなりません。
制作に費やした時間を価値の唯一の根拠にしないことが、改善案を受け取りやすくする一つの方法です。
