子どものころ、夏休みは長い冒険でした。大人になると、ついこの前の正月が、もう次の正月に近づいている。一年の長さは同じなのに、感じ方が変わる。この経験を語るときに出てくるのが、ジャネーの法則です。
ジャネーの法則とは
ジャネーの法則は、年齢が上がるほど、同じ一年が短く感じられることを、人生全体に占める割合から説明する考え方です。
五歳の人にとって一年は、それまでの人生の五分の一。二十歳なら二十分の一、五十歳なら五十分の一になります。
| 年齢 | 一年の割合 |
|---|---|
| 5歳 | 1/5=20% |
| 20歳 | 1/20=5% |
| 50歳 | 1/50=2% |
これは算数としては分かりやすい比率です。ただ、この割合がそのまま体感時間を測った値になるわけではありません。「二十歳で人生の半分を体感し終える」といった結論も、人生の長さや計算モデルの置き方に依存します。残りの人生の感じ方を、年齢一つで決める式ではないのです。
昔から、割合だけでは足りないと考えられていた
ウィリアム・ジェームズは、1890年の『心理学原理』第十五章で、ポール・ジャネの考え方を紹介しています。同時に、年齢の比率だけでなく、振り返るときの記憶の内容にも目を向けました。
見知らぬ場所へ行き、新しい人に会い、初めてのことをする。思い出せる出来事が多い期間は、振り返ったときに広がりを持つかもしれません。同じ日課の繰り返しなら、一日ごとの違いを思い出しにくくなることがあります。
だから、短く感じた一年を、すぐに「退屈な人生だった」と判断する必要はありません。安定した暮らしや慣れた仕事にも価値があります。どのくらい出来事を思い出せるかと、どんな暮らしを大事にしたいかも、別の問いです。
「いま長い」と「あとで長い」は違う
待ち合わせで、相手が来るのを十分待つ。時計を見るたび、まだ二分しかたっていない。反対に、友達と話していると、一時間がすぐ過ぎることがあります。
ところが後日、待っていた十分は、あまり語ることがありません。友達と出かけた一日は、話したことや寄り道をたくさん思い出せるかもしれません。
過ごしている最中の速さと、記憶から振り返る長さは、同じ物差しではないのです。新しい体験を増やしたら、その場の一秒一秒が必ずゆっくりになる、とは限りません。
若い人と高齢者の時間感覚を調べた2015年の研究でも、その場で回答する時間の感覚と、過去の長い期間を振り返る回答を区別しています。年齢だけではなく、どう問い、どの時間を比べるかも大切になります。
日々の違いを、小さく残してみる
一年を長く感じるために、毎日をイベントで埋める必要はありません。思い出す手がかりを少し残す方法もあります。
- 今日、初めて知ったことを一行書く。
- 散歩で気づいた景色を、一枚だけ撮る。
- 作った物の途中経過を、日付付きで保存する。
- 月の終わりに、うれしかった出来事を三つ選ぶ。
たとえばアプリの制作なら、完成したときだけでなく、最初の画面や、動かなかった試作品にも過程があります。保存しておくと、「今月は何もしていない」と思った日に、進んだ道を見直せます。
これは体感時間を伸ばす効果を保証する方法ではなく、自分の一日を思い出しやすくする工夫です。記録そのものが負担なら、一週間に一度だけでも構いません。
大事な時間を、予定の残りに任せない
予定表を細かな用事で満たしてから、「時間が余ったら作ろう」「余裕ができたら会おう」と考えると、大事なことが後ろへ回る場合があります。
今週やりたいことを一つ選び、そのための時間を先に置く。作品を考える三十分、家族と話す時間、休むための夕方。大事な予定は、成果を出すものだけとは限りません。
先に置いた時間にも、変更は起こります。そのときは、なくすか、別の日へ移すかを意識して決める。気づいたら全部が埋まっていた、という状態を少し減らせます。
ジャネーの法則を知ったあと、「これからはあっという間だ」と焦るより、「この一年から何を覚えていたいか」と考えてみる。同じ長さの一年に、自分で選んだ手がかりを残すことは、今日から始められます。

