「これから自分が子どもを返すかどうか当てたら返す。外れたら返さない」。ワニがそう約束したとき、母親は「あなたは子どもを返さないでしょう」と答えました。この一言で、ワニは約束どおりに動けなくなります。人食いワニのパラドックスは、行動とその行動への予想が絡み合う論理のパズルです。
目次
ワニが約束した、二つの条件
ワニが子どもを捕まえ、母親へ次の条件を出したとします。
- 母親の予想が当たったら、子どもを返す。
- 母親の予想が外れたら、子どもを返さない。
母親は、ワニの最終的な行動について「返さない」と予想します。ここで、ワニが取れる二つの行動を、順に試してみましょう。
どちらを選んでも、条件に合わない
| ワニが実際にすること | 母親の予想 | 約束から求められる行動 |
|---|---|---|
| 子どもを返す | 「返さない」は外れ | 外れたので、返さないはず |
| 子どもを返さない | 「返さない」は当たり | 当たったので、返すはず |
返すと、返さないことが求められます。返さないと、返すことが求められます。つまり、二つの行動のどちらにも、すべての条件を満たす答えがありません。
これは、ワニが単に判断に時間をかけている状態ではありません。「正しい行動を探せば、いつか見つかる」という前提自体が、ここでは成り立たないのです。
予想を当てるゲームが、予想どおりに動けなくする
普通の予想ゲームなら、「明日のサイコロの目」を当てても、その答えによってサイコロの目が変わる必要はありません。答えと結果を、別々に決められます。
ところがワニの約束では、母親の予想が正しいかを判断するために、ワニの行動を知る必要があります。そして、行動を決めるために、母親の予想が正しいかを知る必要があります。
母親の発言がワニの行動を指し、行動のルールがその発言の真偽を参照する。こうした循環が、矛盾を生む仕掛けです。未来が読めないという一般的な不確実性とは、問題が違います。
別の予想なら、同じ矛盾になる?
母親が「あなたは子どもを返すでしょう」と答えた場合も考えてみます。ワニが返せば予想は当たりなので、返す条件に合います。返さなければ予想は外れなので、返さない条件に合います。
この場合は、どちらも条件を満たせます。ただし、ルールだけで一つの行動に決まるわけではありません。「答えがない」と「答えが二つある」は違います。発言の内容を変えるだけで、仕組みの性質が変わるところも、このパズルの面白い部分です。
嘘つきのパラドックスと、貼り紙の違い
「この文は偽である」という文も、自分自身の真偽を扱うことで問題を生みます。真だとすると偽になり、偽だとすると真になる、という有名な嘘つきのパラドックスです。
一方、「貼り紙禁止」という貼り紙は、同じ仕掛けとは限りません。禁止ルールを示す掲示は例外にする、という解釈なら矛盾しません。例外がなければ、その掲示自体がルール違反になり得ますが、必ず真偽が反転する文ではありません。
アプリのルールには、循環を持ち込まない
例えば「プレイヤーが負けると予想したら勝ち、勝つと予想したら負け」とだけ決めるゲームなら、予想を外す仕組みとして作れます。ただ、それを「最終結果を正確に予想した人が勝つ」という条件と同時に要求すると、条件が衝突する場合があります。
ゲームや設定画面を作るときも、各ルールが別のルールの結果を待ち続けていないか、すべての条件を同時に満たせるかを考える必要があります。処理を速くしても、矛盾した条件そのものは解決しません。
おまけの言葉のパズル
王が囚人に「好きな死に方を選ばせよう」と約束しました。囚人は何と答えれば、長く生きることを望めるでしょうか。
答えと、ワニの話との違いを見る
定番の答えは「老衰で死にたい」です。王がその希望を認めるなら、寿命まで生きる余地ができます。ただし、言葉の約束をどう解釈するかに依存するパズルです。ワニの例のように、どちらの行動でも必ず条件が衝突することを示したわけではありません。
パラドックスを楽しむときは、まず条件を正確に並べ、場合分けしてみる。それだけで、単なる意外な答えと、解がないルールとの違いが見えてきます。
ワニのパラドックスに「解決方法」はある?
条件をそのままにして、返す・返さないのどちらかを選ぶ解はありません。解決するなら、ルールを変更する、約束を撤回する、予想とは独立した出来事を当てる問題にするなど、前提を変える必要があります。「ワニが約束を破る」は現実の行動として可能でも、元の問題の条件を満たす解答ではありません。
例えば「予想が当たったら返す」という条件だけにし、外れた場合を指定しなければ、返して予想を外す選択はその条件に違反しません。一方向の条件と、「当たる場合・外れる場合」の両方を指定した条件の差が、矛盾を考える鍵です。
普通のジレンマとは何が違う?
普通のジレンマでは、二つの選択のどちらにも不利益があるため迷います。それでも選択自体は実行できます。ワニの問題では、どちらを実行しても約束の条件を満たせません。「どちらも嫌だ」と「どちらも条件に合わない」を分けると、論理的な矛盾の意味がはっきりします。
面白いパラドックス11選では、自己言及の矛盾と、確率や集計の直感に反する問題を読み比べられます。条件の読み方を練習するなら、論理の誤り10選も参考にしてください。
