トートロジーには、日常の文章でいう「同じ意味の反復」と、論理学でいう「命題の真偽をどう組み合わせても真になる式(恒真式)」という二つの用法があります。『なぜこの方法がいいの?』『よい方法だからだよ』という説明を手掛かりに、循環論法との違いも見ていきます。
日常のトートロジーは、同じ意味の繰り返し
日常の文章でいうトートロジーは、同じ内容を別の言葉で重ねることです。『力とはパワーだ』『決定したことは決定事項です』など、説明したようで、新しい情報がほとんど加わらない言い方があります。
ただ、繰り返しがいつも悪いわけではありません。『約束は約束だ』は、約束という言葉を定義せず、守るという姿勢を強調しています。言葉の辞書的な意味だけでなく、会話の場面で何を伝えたかを見る必要があります。
トートロジーの例文10選:強調と説明不足を分ける
以下はすべて説明用の作例です。1〜5は同じ語を繰り返す修辞的な表現、6〜10は同じ意味の言い換えです。右欄は、説明や理由を求められたときに情報を足す例であり、会話では元の言い方が適切な場面もあります。
| 例文 | 伝わること・不足すること | 具体化するなら |
|---|---|---|
| 1.約束は約束だ | 守るべきだという姿勢を強める | 期限を決めたので、その日までに渡す |
| 2.ルールはルールだ | ルールを優先する態度を表す | 順番を公平にするため、一人一回にしている |
| 3.私は私だ | 自分らしさを主張する | ほかの人と違っても、自分はこの方法を選ぶ |
| 4.勝ちは勝ちだ | 勝利として扱うことを強調する | 僅差でも規定の得点を上回ったので勝利だ |
| 5.過去は過去だ | 今後へ目を向けるよう促す | 前回の結果は変えられないので、次の手順を決めよう |
| 6.力とはパワーだ | 同義語への置き換えだけでは内容が増えない | この文での力は、荷物を持ち上げる身体能力を指す |
| 7.決定事項とは、決定した事柄だ | 語を言い換えているが、何を決めたかは不明 | 公開日を金曜日にする、と決めた |
| 8.使いやすいとは、使い勝手がよいことだ | 評価の基準が増えていない | 初回でも説明なしで問題を開始できる |
| 9.安全な方法とは、危険のない方法だ | どの危険を避けるかが不明 | この手順では、入力内容を消す前に確認を表示する |
| 10.人気商品とは、人気のある商品だ | 集計方法や対象を説明していない | 当店の先月の販売個数が最も多い商品だ |
「頭痛が痛い」のような重言は、語に含まれる意味を重ねる表現です。トートロジーと重なる話題ですが、「同じ文を言い直す」「文の構造上いつも真になる」とは区別すると整理しやすくなります。
論理学のトートロジーは、常に真になる式
論理学では、命題の真偽をどのように組み合わせても真になる式を、トートロジー(恒真式)と呼びます。OpenStaxの数学教材でも、この意味で使われています。
例えば、Pを『この問題の答えはBだ』という命題とします。古典論理で『P、またはPではない』という式を作ると、Pが真でも偽でも、式全体は真になります。
| P | Pではない | P、またはPではない |
|---|---|---|
| 真 | 偽 | 真 |
| 偽 | 真 | 真 |
これは、どちらが実際の答えかを教える式ではありません。ただ、式の論理的な構造を示します。論理学のトートロジーを、すべて『無駄な発言』と扱うと、推論のルールを確かめる役割を見落とします。
恒真式・矛盾式・場合によって真になる式
| 式の形(古典命題論理) | Pが真 | Pが偽 | 分類 |
|---|---|---|---|
| P または Pではない | 真 | 真 | トートロジー(恒真式) |
| P かつ Pではない | 偽 | 偽 | 矛盾式 |
| P | 真 | 偽 | 真偽の割り当てによる |
「毎日太陽が昇る」のように、経験上よく成り立つ文章を、そのまま論理学のトートロジーとは呼びません。事実を調べて真だと分かることと、式の形だけでどの割り当てでも真だと分かることは異なります。
循環論法との違い
循環論法は、示したい結論を根拠の中へ入れてしまい、結論を独立に支える理由がない推論です。哲学事典の解説でも、出発点に、到達しようとしている内容を置く誤りとして説明されています。
例えば、『このレビューは信頼できる。なぜなら、信頼できるレビューを書いている人の文章だからだ』と言い、書き手が信頼できる根拠を尋ねると『このレビューが正しいから』と返す。二つの主張が互いを支えて、外の根拠に届きません。
日常の意味の反復、恒真式、循環論法は、似て見える場面があっても、同じ定義ではありません。反復は表現の重なり、恒真式は式の真偽、循環論法は理由づけの構造に注目しています。
『右は左の反対』だけで説明できる?
『右とは左の反対』『左とは右の反対』だけを読んでも、両方の言葉を知らない人には、向きを決める手掛かりがありません。定義の言葉を行き来するだけになってしまいます。
説明を足すなら、『南を向いたときの西側』のように、別の基準を使う方法があります。ただし、今度は南と西が分かる必要があります。文字だけで分かりにくければ、図の矢印や実際の向きを示す方法も考えられます。
つまり、よい説明は、言葉を一つ言い換えれば完成するとは限りません。読む人が既に知っている基準や、確かめられる例へつなぐことが役立ちます。
アプリの説明にも、具体的な基準を足す
『使いやすいアプリとは、使い勝手がよいアプリです』だけでは、何を作ればよいか分かりません。『最初の画面から二回の操作で問題を始められる』『間違えた理由を表示する』なら、動かして確かめられます。
説明を具体的な操作や結果に結び付ける例は、ゲームのルール説明の作り方で紹介しています。
- 言い換えた後に、新しい情報が増えたかを見る。
- 理由が、結論を別の言葉で繰り返していないか確かめる。
- 抽象的な評価には、具体例や確認できる条件を添える。
トートロジーを指摘するときも、『同じことを言っている』で話を止めるより、『どんな場面で、何がよくなるのか知りたい』と尋ねる方が、次の説明につながります。条件を整理する考え方は、必要条件と十分条件の記事でも紹介しています。
