違う国の物語なのに、似た登場人物や展開が出てくることがあります。道を教える人物、恐ろしいものとの対決、出発して変化した主人公。こうした共通性を、人間の心にある型から考えようとしたのが、ユングの集合的無意識という概念です。
目次
集合的無意識とは
集合的無意識は、スイスの精神科医カール・グスタフ・ユングが提唱した、個人の経験を超えて人類に共通する無意識の領域です。ユングの「集合的無意識の概念」では、個人的無意識と区別して説明されています。
個人的無意識は、その人が経験したものの、忘れたり意識から離れたりした内容に関わります。一方、集合的無意識についてユングは、個人が後から獲得したものではなく、受け継がれた心の形式があると考えました。
その内容を形づくるものが元型(アーキタイプ)です。具体的な物語を全員が生まれつき知っているというより、心の内容が一定の形を取る土台がある、というユングの考え方です。
物語の「型」と、具体的な人物は違う
創作を考える例として、「導いてくれる存在」を想像してみます。ある話では旅の師匠、別の話では地図を渡す人、また別の話では疑問を投げかける相棒になるかもしれません。似た役割があっても、人物の姿や性格まで同じとは限りません。
「帰る場所」「知らない世界への入口」も、作品によって違う形になります。共通する働きを見つけることと、その作品ならではの描写を読むことを行き来すると、物語を比較する楽しさが増します。
似ている理由は、一つに決まらない
似た神話や表現を見つけたとき、集合的無意識は一つの解釈の枠組みになります。同時に、文化が伝わった可能性、似た生活環境、人間が経験する共通の出来事も考えられます。似ていることだけで、特定の説明に決めることはできません。
ユング自身の文章でも、無意識に現れたものが、言語や教育を通して身に付いた可能性への注意が述べられています。まず何が似ているのかを具体的にすると、「どれも同じ物語だ」という大づかみな話から進めます。
ブーバ・キキ効果は、別の問いを調べる研究
丸い形には「ブーバ」、尖った形には「キキ」という音を結び付けやすい。この音と形の対応は、ブーバ・キキ効果として研究されています。25言語の話者を対象にした研究でも、文化や文字体系を越えた傾向が検討されました。
面白い共通性ですが、その研究はユングの集合的無意識を直接証明するものではありません。音と形の対応という実験で調べる問いと、神話や心の型を理解する理論の問いを分けると、両方の面白さが見えてきます。形と音を試してみたい方は、ブーバ・キキ効果の記事へどうぞ。
人の夢を共有する場所なのか
「集合」という言葉から、全員の心が一か所で接続しているように想像することもあるかもしれません。しかし、集合的無意識を説明するだけで、夢を通じた通信や、他人の気持ちが読めることまでわかるわけではありません。
夢に知人が出てきたとしても、それで相手の好意が確定することはありません。相手の気持ちは、その人の言葉や行動から知るものです。夢は、まず自分が何を感じ、何を気にしているかを考えるきっかけとして眺められます。
創作では、型から一歩先へ進める
ゲームや物語を作るときには、繰り返し現れる役割を設計の入口にできます。「導く人物がいる」から始めて、「その人物はどこまで知っているか」「主人公と意見が違ったらどうなるか」と考えてみます。
同じ役割でも、言うこと、隠していること、主人公との距離が変われば、別の人物になります。型は材料を並べるための足場です。その先にある具体的な選択や会話が、読者やプレイヤーの記憶に残る作品を作ります。
ユングに関係する概念はペルソナ、物語の構造はデウス・エクス・マキナでも紹介しています。

