認知的不協和:酸っぱいブドウにご用心?(知的な小話93)

ここでは、日常会話で使える知的な小話と、実際の使用例を紹介します。

認知的不協和とは

認知的不協和とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えると、不快感を覚えるという社会心理学の現象です。

例えば、お金持ちになりたいという夢があるのに、低賃金のサラリーマン生活から抜け出せない場合や、異性にモテたいのに、全然相手が見つからないといった場合、人は不快感を覚えます。

当然のことのように思えますが、重要なのは人がこうした現実と理想とのギャップに直面した時、それを解消する方法にあります。

例えば、「お金持ちになりたいが、自分は貧乏なサラリーマンである」という認知的不協和が発生したとします。

こうした場合、この理想と現実のギャップを解決する手段は2つあります。

①実際にお金持ちになる
②お金持ちになりたいという気持ちを消す


当然、①のお金持ちになるということが達成できれば理想的です。

しかし、普通のサラリーマンがいきなりお金持ちになることは非常に難しいです。

宝くじが当たる確率などほとんどゼロのようなものですし、起業して稼ぐのにも能力が必要な上、リスクを取らなければなりません。

そのような状況で、多くの人が認知的不協和の解消に用いるのは、②のお金持ちになりたいという気持ちを消す方法です。

つまり、「お金などいらない」と思い込み、自分を騙すのです。

「お金が無くても幸せだ」「お金を稼ぐのは悪いことだ」「金持ちはズルいことをしてるに決まってる」と自分の本心を偽り、理想の方を現実に近づけるのです。

この手法なら宝くじを当てる豪運も、会社を起こす能力や資金も必要なく、簡単に認知的不協和を解消することができます。

ほとんどの人は無意識的にこのような方法で認知的不協和を解消しながら生きているのです。

認知的不協和の解消例

自分を偽って認知的不協和を解消している例をいくつか挙げてみます。

振られた相手を嫌いになる

異性への告白に失敗した時に、直前までは大好きだったはずの相手をすぐに嫌いになってしまう人がいます。

実はこれは無意識に認知的不協和から自分のことを守ろうとした結果なのです。

告白をする時点では、相手のことが好きで、是非とも付き合いたいと思っている訳ですが、告白が失敗した瞬間に、これ以上その相手とは仲良くなれないことが確定してします。

この時点で、「相手と仲良くなりたいけど、仲良くなれない」という認知的不協和が発生します。

既に告白に失敗しているため、この理想と現実のギャップを埋めるためには、「この相手と別に仲良くならなくても良い」と思い込むしかありません。

その結果として、「相手は悪い人だ」「本当は別に付き合いたくなかった」などと考えるようになるのです。

このようなメカニズムで人は振られた相手のことを嫌いになるのです。

酸っぱいブドウ

イソップ童話の中に『酸っぱいブドウ』という話があります。

キツネが、たわわに実ったおいしそうなブドウを木の上に見つけました。

ブドウを取ろうとして跳び上がりますが、木は高くて手が届きません。

何度跳んでも届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんなブドウは、酸っぱくて不味いだろう。誰が食べてやるものか。」と捨て台詞を吐いて取るのを諦めてしまいました。


これも、自分に嘘をついて認知的不協和を解消している例です。

この物語では「ブドウを食べたいけど食べられない」という認知的不協和が発生しています。

キツネは本当はブドウが食べたかったのですが、本心を偽って「ブドウは不味いはずだ」と思い込み、自身を納得させています。

この『酸っぱいブドウ』は認知的不協和の説明をする際に、良く用いられる例です。

仕事が生きがい

たまに「仕事が楽しくて仕方がない」「仕事が自分の生きがいだ」「今の職場は最高だ」と言って、仕事を楽しんでいる人がいます。

一部の人は本心から仕事を楽しんでいるのかもしれませんが、ほとんどの場合は、認知的不協和によって自分を偽っているだけに思えます。

多くの人にとって仕事は生きるための手段であり、現在の仕事を辞めて転職することや、フリーランスになることは、非常に大きな労力を必要とします。

そのため、現状の仕事が本当はつまらなくても、簡単に辞めることはできません。

このような状況で、今の仕事がつまらないと認めるわけにはいきません。

「つまらない仕事を続けなければならない」という認知的不協和が発生してしまうためです。

もうお分かりでしょうが、この理想と現実のギャップを解消する方法は一つしかありません。

自分に嘘をついて仕事が楽しいと思い込むのです。

このように自身を納得させることで、人はなんとか精神を保っているのです。


以上からわかるように、認知的不協和は身の回りに溢れています。

自分を偽って認知的不協和を解消しても、根本的には何の解決にもなりません。

安易に自分を騙す方法に逃げそうになった時は、一旦立ち止まって自分の本心を直視することも重要なのかもしれません。

日常会話での使用方法

「俺はブサイクだし無職だし彼女もいないけど、人生楽しい!」

「君は認知的不協和に対応するために自分を納得させてるに過ぎないよ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です