みんなが同じ言葉を話せば、大きな仕事も協力して進められる。ところが、その言葉が突然通じなくなったらどうでしょう。バベルの塔の物語は、巨大な建築の話であると同時に、協力を支える「分かり合えること」の話でもあります。
目次
バベルの塔のあらすじ
旧約聖書の創世記11章1〜9節では、人々は同じ言語を使っています。シンアルの平地に住み、れんがで町と、天に届く塔を作ろうとします。名を上げ、地上に散らされないためです。
神は、人々の言葉を混乱させ、互いの言葉が分からないようにします。人々は各地へ散り、建設をやめます。そこは、言葉の混乱に結びつけてバベルと呼ばれます。
この部分の本文には、神が塔を壊したとは書かれていません。また、人々が神を倒してその地位を奪おうとした、という説明もありません。塔の崩壊や反乱のイメージと、本文にある出来事を分けると、言葉と協力に焦点を当てて読めます。
言語の起源の物語と、言語の研究
バベルの塔は、多くの言語があることを説明する宗教的な物語です。言語が実際にどう変化し、分かれたかを調べる学術的な説明とは、役割が違います。
そのうえで、「言葉が通じなければ一緒に作れない」という場面は、現代にも引き寄せて読めます。同じ言語でも、専門用語、略語、言葉に含める範囲が違えば、話はすれ違うからです。
たとえば、仕事で「簡単な修正」と言ったとき、一人は文字を一箇所変えるつもりで、もう一人は画面の仕組みまで直すつもりかもしれません。単語が聞き取れていることと、計画を共有できていることは違います。
英語とロシア語では、青の分け方が違う
言葉による分類の例として、英語ではblueに含める範囲を、light blueやdark blueでさらに分けられます。ロシア語では、明るい青をgoluboy、暗い青をsiniyという基本的な呼び方で分けます。


色の識別を調べた研究
ウィナワーらの2007年の研究では、英語話者とロシア語話者に青の識別課題を行ってもらいました。ロシア語話者には、言葉の分類の境界をまたぐ青どうしを、同じ分類内の青どうしより速く識別する傾向が見られました。言語的な妨害課題を加えると、この利点は失われました。
これは、言語による分類が、その課題での色の判断に関わることを示します。「英語話者は濃い青と薄い青の違いが見えない」「言語が違えば別の色の世界に閉じ込められる」とまで言う結果ではありません。
翻訳できても、意味のすべてがそろうとは限らない
翻訳は違う言葉の間に橋をかけます。でも、「この文章は自然か」「この言い方は強すぎないか」「このゲームのヒントで同じ連想ができるか」は、単語の置き換えだけでは決まらないことがあります。
日本語の言葉遊びを別の言語に直す場面なら、同じ文字数や音の似方が使えないこともあるでしょう。何を面白さの中心として残すかを考える必要があります。これは塔が壊れる予言ではなく、作る側が確かめたい設計上の問題です。
分かり合うために、具体例を一つ添える
「分かりました」と返事があっても、同じものを想像しているかはまだ分かりません。図を見せる、例を一つ作る、相手の言葉で説明してもらう。そうすると、食い違いに早く気づけます。
バベルの塔から私が考えたいのは、同じ言葉へ統一すればすべて解決する、ということではありません。違いがあるまま、何を共有すれば一緒に進められるか。高い塔を作る前に、その土台を確かめる視点です。
