ここでは、日常会話で使える知的な小話と、実際の使用例を紹介します。
テセウスの船とは
テセウスの船とは、ある物体の構成要素が全て入れ替わった時に、その物体は元の物体と同じものだと言えるかという問いかけです。
ある木製の船があります。
その船は、長年使用されていくうちに、故障と修理を繰り返し、船の部品をどんどん入れ替えていきます。
ある時点で、船の最初の部品が全て入れ替わってしまったとして、その船は元の船と同一であると言えるのでしょうか?
また、船が同一の船でなくなるとしたら、どの時点でその船ではなくなるのでしょうか?
船の全体の構成物が入れ替わっているため、元の船とは同一でないと言えるように思えます。
しかしその一方で、全体としては常に元の船の一部をキープし続けているため、元の船と同一とも考えられます。
どちらの解釈も正しそうに思え、判断が非常に難しいです。
この話は、人間にも適応できます。
例えば事故などで腕や脚を移植した場合や、脳の一部を他人の物と入れ替えた場合、それでもまだ自分は自分だと言えるのでしょうか。
アイデンティティに関係する似たような話として、スワンプマンを以下の記事で紹介しています。
テセウスの船の種明かし
テセウスの船の部品が全て入れ替わった時に、元の船と同一と言えるかどうか判断がつかなくなるという問題は「同一」という言葉の定義の曖昧さにあります。
ここでの「同一」という言葉の解釈には2パターンあり、それによって同一と言えるか、同一と言えないかが変わります。
①物質としての同一性
②機能としての同一性
①物質としての同一性を考えた場合、全ての部品が入れ替わった時点で、テセウスの船は元の船とは別物だと言えるでしょう。
例えば、テセウスの船が歴史ある古い船で、考古学的に価値があるものであった場合、船を構成する木材などの部品自体が重要となります。
この時、船を構成する部品が全て入れ替わってしまったら、そのテセウスの船にもはや価値はありません。
パーツが全て別物となった時点で、テセウスの船から歴史的に価値のある情報は既に無くなってしまうためです。
このように、物質としての同一性を考えた場合は、全ての部品が入れ替わった時点で最初の船とは同一ではなくなります。
一方、②機能としての同一性を考えた場合、全ての部品が入れ替わったとしても、テセウスの船は元の船と同一だと言えるでしょう。
例えば、テセウスの船は毎朝9時に東京から熱海に向けて出航する定期船だとします。
この船の機能・役割を考えた場合、船の部品や素材は重要でなく、決まった時刻に決まった目的地に出航することが重要です。
そのため、船の部品が全て入れ替わっても、テセウスの船は、テセウスの船としての役割を果たし続けることができるので、元の船と同一の船であると言えます。
このように、テセウスの船は見方によって答えが変わってしまうのです。
日常会話での使用方法
「人間の細胞って2年で全部入れ替わるらしいよ」
「テセウスの船だね。2年前の自分と今の自分は別人かもよ」
本サイトで紹介している用語一覧は以下です。