数字は合っているのに、受け取る印象が変わる。残った選択肢が二つだから半々だと思ったり、よく当たる判定なら警告もほぼ正しいと思ったり。確率・統計の不思議さは、数える対象や条件の取り違えから生まれることがあります。
7つの問題を、短い計算と作例で考えます。高度な数式よりも「何を分母にしたか」「どんな情報を知ったか」「誰を集めた数字か」を追ってみてください。問題・認知上の誤り・統計的な現象を含む一覧で、すべてが同じ種類のパラドックスではありません。
目次
まず確認する三つのこと
| 確認 | 例 |
|---|---|
| 出来事 | 自分と同じ誕生日か、誰でもよい二人の一致か |
| 条件 | 司会者は答えを知っているか、抽選は独立か |
| 集団と分母 | 警告された記録か、不備のある記録か |
1.モンティホール問題:扉が二つ残ったら、確率は半々?
3枚の扉に当たりが1枚あります。あなたが1枚選ぶと、当たりを知る司会者は残りから必ず外れの扉を1枚開け、必ず選び直す機会を与えます。このルールなら、選択を変えると当たる確率は2/3、そのままなら1/3です。
最初の選択が当たりなのは1/3。この場合だけ、変更すると外れます。最初が外れの2/3の場合、司会者がもう一方の外れを開けるので、変更先は当たりです。「残った枚数」だけでなく、どんなルールで情報が出たかを数えます。偶然扉を開けた人がたまたま外れを見せた設定とは、同じ計算にできません。
考える問い:司会者が必ず変更を提案する、という条件を外したらどうなるか。
2.誕生日のパラドックス:23人でも、同じ誕生日の組ができやすい
一年を365日、各日の誕生日を同確率で独立とするモデルでは、23人の中に同じ誕生日の二人以上がいる確率は約50.7%です。「自分と同じ誕生日の人がいる確率」とは違います。誰と誰でもよいので、23人なら比較する組は23×22÷2=253組あります。
計算は「全員違う」の逆を使います。1−(365/365)×(364/365)×…×(343/365)です。ただし253組の一致は互いに独立ではないため、組数に1/365を掛けただけでは正しい確率になりません。現実の誕生日は季節などによって均等ではなく、これは条件を単純化した結果です。
考える問い:「誰か二人」と「特定の自分と誰か」で、数える出来事はどう違うか。
3.基準率の見落とし:よく当たる判定でも、警告の大半が誤り?
10,000件の架空の記録のうち、不備は1%の100件とします。自動判定が不備の90%を検出し、不備のない記録の5%にも警告を出すなら、正しい警告は90件、誤警告は9,900×5%=495件です。警告585件のうち本当に不備なのは約15.4%になります。
90%という検出率だけでは、警告が出たものの信頼性は分かりません。もともとの不備が少ないので、正常な記録の小さな割合からも多くの誤警告が生じます。「不備のうち警告になる割合」と「警告のうち不備である割合」の分母を分けます。数字は説明用であり、実在の検査やサービスの性能ではありません。
考える問い:最初の不備率が増え、判定性能が同じなら、警告の内訳はどう変わるか。
4.シンプソンのパラドックス:条件別では高いのに、合計では低い
二つの練習法A・Bの達成率を比べる架空の例です。易しい課題でAは9/10、Bは80/100。難しい課題でAは20/100、Bは1/10。どちらの課題でもAが高いのに、合計はAが29/110、Bが81/110となり、Bが高くなります。
Aには難しい課題が多く、Bには易しい課題が多いからです。全体の率は、条件ごとの率を人数で重み付けしたものになります。ただし「必ず分けた表が正しい」とも言えません。何を比較したいのか、課題の割り当て方が原因・結果とどう関係するかによって、適切な見方は変わります。まず分母と集団の構成を確認します。
考える問い:AとBで課題の難しさの割合をそろえたら、どう比較できるか。
5.ギャンブラーの誤謬:表が続いたら、次は裏が出やすい?
公平なコインを独立に投げると仮定すると、表が5回続いても、次の裏の確率は1/2です。過去の並びが次の投げ方やコインを変えないからです。「長く続けると割合が半分に近づく」という話は、次に必ず帳尻を合わせることを意味しません。
例えば最初の10回が全部表でも、その後990回で表495・裏495なら、合計の表は505/1000です。後から裏が表より多く出なくても、最初の偏りの影響は割合では小さくなります。一方、コインが公平かどうかをまだ知らない場合、連続結果はその仮定を見直す材料になり得ます。「公平で独立」という前提を忘れないことが大切です。
考える問い:結果が独立な抽選と、一度引いたものを戻さない抽選はどう違うか。
6.平均への回帰:極端によい結果のあとに、普通の結果が出る
成績が普段の力と一時的な運の両方で決まる場面を考えます。特に高い点の人だけを選ぶと、力が高い人に加え、たまたま運がよかった人も含まれます。次回の運まで同じとは限らないため、集団として次の点は極端さが弱まりやすくなります。
高得点の人を褒めたあと点が下がっても、それだけで褒めることが逆効果だったとは言えません。同様に、低得点のあとに注意して点が上がっても、注意の効果とは限りません。評価には比較対象や繰り返しの測定が必要です。個々の人が必ず平均に戻る法則でも、実力の変化が存在しないという主張でもありません。
考える問い:介入しなかった同じ条件の集団と比べても、変化は残るか。
7.平均値と中央値:「平均100万点」が、典型的な人を表さない
架空の5人の保有ポイントが10、10、10、10、460万点なら、合計500万点を5で割った平均値は100万点です。しかし中央の値である中央値は10万点で、100万点を持つ人はいません。平均は合計の配分を見るのに便利ですが、よくある値を一つで表す用途とはずれる場合があります。
どちらが正しい数字かを争うより、答えたい問いに合うかを考えます。総量を見積もるなら平均と人数が役立ち、真ん中あたりの状況を知りたいなら中央値が入口になります。それでも格差や両端の状況は一つの指標だけでは分からないので、範囲や分布も併せて見ます。「平均より上が半分」という関係も一般には成り立ちません。
考える問い:同じ平均でも、全員100万点の場合と何が違うか。
基本からは統計の基本用語8選へ。平均だけで見えない差は分散・標準偏差で整理できます。
数字を見る順序を決める
- 比較したい対象と、数字の単位を書き出す。
- 割合なら分子と分母を人数・件数へ戻す。
- 全体と条件別の両方を見て、集め方を確認する。
- 関連があることと、原因であることを分ける。
同じ数値でも、解きたい問いが違えば必要な集計も変わります。説明が直感と合わないときは、結論を丸暗記する前に、小さい架空の集団や全パターンの表へ戻すと確かめやすくなります。
参考資料
- MIT OpenCourseWare:条件付き確率・独立性・ベイズの定理(PDF)
- Stanford Encyclopedia of Philosophy:Simpson’s Paradox
- UC Berkeley SticiGui:Errors in Regression
掲載した数値例は理解のための独自の作例です。誕生日の確率は本文の均等・独立モデルから計算しています。