「不備がある記録を90%の割合で見つけられる仕組み」が警告を出したら、その記録に不備がある確率も90%でしょうか。実は、その情報だけでは決まりません。そもそも不備のある記録がどれだけあるか、正常な記録にもどの程度警告を出すかが必要です。
基準率は、対象とする集団で、その出来事や属性がもともと占める割合です。個別の目立つ情報に注目し、この割合を十分に考えず判断する誤りを、基準率の誤謬や基準率無視と呼びます。
10,000件の記録を、二つの集団に分ける
架空の書類チェックを考えます。不備がある記録は全体の1%。仕組みは不備の90%に警告を出しますが、正常な記録にも5%の割合で誤警告を出すとします。「90%当たる」という曖昧な表現を、この二つの条件に分けるのが出発点です。
| 実際の状態 | 件数 | 警告あり | 警告なし |
|---|---|---|---|
| 不備あり | 100 | 90 | 10 |
| 正常 | 9,900 | 495 | 9,405 |
| 合計 | 10,000 | 585 | 9,415 |
警告は90+495=585件。そのうち本当に不備があるのは90件なので、警告された記録に不備がある割合は90/585≒15.4%です。正常な記録が圧倒的に多いため、わずか5%の誤警告でも件数では大きくなります。
ここで分母になるのは「不備のある100件」ではなく、「警告された585件」です。90/100と90/585は同じ90件を数えていても、答えている質問が違います。
条件の向きを逆にしていないか
- 不備があると分かっているとき、警告が出る確率:90%。
- 警告が出たと分かっているとき、不備がある確率:約15.4%。
前者から後者を考えるには、基準率と誤警告率を合わせます。不備の割合をp、不備を検出する率をs、正常な記録に誤警告を出す率をfとすると、警告後の不備の割合は sp÷{sp+f(1−p)} です。分子は真の警告、分母は真の警告と誤警告の合計に対応します。
同じ仕組みでも、集団が変わると答えが変わる
今度は、不備のある割合が10%の別の集団で、同じ検出率90%・誤警告率5%を仮定します。10,000件なら不備1,000件から900件の警告、正常9,000件から450件の誤警告が出ます。警告1,350件中900件なので約66.7%です。
仕組みの二つの率が同じでも、集団の基準率が変われば警告の意味は変わります。ただし現実には、集団が変わると検出率や誤警告率自体も変わる可能性があります。別の集団で測った数値を、そのまま移してよいかも確認が必要です。
「珍しいから起きていない」と決めつけるのも違う
基準率を考慮することは、個別の証拠を無視することではありません。精度の高い追加確認が得られれば、見込みは変わります。この例で分かるのは、警告だけで確定せず、その仕組みの特性に合った確認が必要だということです。
また、同じ仕組みで再チェックした二回の警告を、独立した証拠として掛け合わせられるとは限りません。同じ書き方の癖が両方の誤警告の原因なら、情報は重複しています。確率の計算では、数字だけでなく条件をそろえます。
数字を見るとき、何を確認する?
- 対象集団と、その中での元の割合。
- 「当たる」の意味。不備の検出率か、正常判定の率か、全体の正解率か。
- 警告後の割合を知りたいなら、警告されたもの全体を分母にする。
- 追加情報が独立か、同じ原因を数え直していないか。
参考:OpenStax:Principles of Data Science, 3.4 Probability Theory(条件付き確率・ベイズの定理)。本文の日常場面と数値例は、特記のない限り説明用の作例です。