同じものが、ある市場では100円、別の市場では103円で取引されている。安い方で買い、高い方で売れれば、差額を得られそうです。このように価格のずれを利用する考え方が、アービトラージです。
アービトラージの意味
アービトラージは、同じ資産や経済的に同等の資産の価格差を利用する取引で、日本語では裁定取引と呼ばれます。さや取りという表現も使われますが、その範囲は文脈によって異なります。
日本取引所グループの用語集では、同一の性格を持つ商品のうち、割高な方を売り、割安な方を買う取引として説明されています。現物と先物、異なる先物など、関係する商品間の取引もあります。
2つの市場での、単純な計算例
架空の資産Xについて、市場Aで1単位を100円で買え、市場Bで同じ1単位を103円で売れるとします。両方の取引をその価格で成立させ、受け渡しにも問題がなければ、費用を差し引く前の差額は3円です。
| 項目 | 架空の金額 |
|---|---|
| Aで購入 | −100円 |
| Bで売却 | +103円 |
| 費用を引く前の差額 | +3円 |
| 合計費用が4円だった場合 | 差し引き−1円 |
ここで使うのは、「実際に買える価格」と「実際に売れる価格」です。画面に表示された直近の取引価格や参考価格が、その数量で注文を成立させられる価格とは限りません。
その場の交換と、価格差の収束を待つ取引
同じ資産を安く取得して高く渡せるなら、価格差の解消を待たずに差額を確定できる形があります。一方、関係する2つの商品を買いと売りで持ち、将来の価格差の縮小を待つ形もあります。
後者では、期待した関係へ戻らないことや、差がさらに広がることがあります。似た値動きをしているだけの2つの資産について、「いつか同じ価格になるはず」と賭ける取引を、厳密な意味での無リスクな裁定と同じにすることはできません。何が、どの仕組みで同等になるのかが大切です。
「差額が見える」と「利益が確定する」は違う
実際の取引では、次のような条件を確かめる必要があります。
- 費用:売買手数料、送金・移転の費用、資金を用意する費用など。
- 約定:両方の注文が、必要な量だけ想定どおりに成立するか。
- 時間:移転や処理を待つ間に、価格が変わらないか。
- 決済:受け渡しや出金が予定どおり行われるか。
- 商品や通貨の違い:同じ名前でも条件が違わないか、為替変動が入らないか。
たとえば一方の買いだけが成立し、売りが成立しなければ、資産を持つ間の価格変動を受けます。空売りを使う場合にも、借りられる条件や維持するための負担があります。自動化しても、こうした条件が消えるわけではありません。
価格が揃いやすくなる理由
理想的な条件で同じものを安く買い高く売れるなら、その取引をする人が増えると、安い市場の買いが増え、高い市場の売りが増えます。結果として価格差が縮まる方向へ働きます。ただし、取引の制約や費用があれば、差が残ることもあります。
アービトラージの面白さは、値上がりを当てる話だけではなく、市場同士の関係を見るところにあります。「確実に儲かる」という言葉に置き換えるより、利益が出るために何が同時に成り立つ必要があるかを考えると、仕組みがよく見えます。平均の金額だけで判断しにくい例には、サンクトペテルブルクのパラドックスもあります。
