自発的対称性の破れは、法則には対称性があるのに、実現する状態がその対称性を持たないことです。「法則が壊れた」という意味ではありません。右と左を同じように扱う規則から、どちらか一方が選ばれる状況を考えます。
読み:じはつてきたいしょうせいのやぶれ / 英語・関連表記:spontaneous symmetry breaking SSB
目次
二つの谷は同じでも、玉は一方へ
左右対称な二つの谷を持つ地形に玉を置く模型を考えます。地形は左右を入れ替えても同じですが、玉が左の谷に落ち着いた状態は、右へ入れ替えると別の状態になります。
これは、規則の対称性と状態の対称性を分けるためのたとえです。実際の物理では、どの量が状態を区別し、どんな条件でその状態が保たれるかを詳しく指定します。
外から選ばせる場合との違い
左の谷だけを低く削れば、地形そのものの左右対称性が失われます。これは対称性を明示的に破った模型です。一方、対称な地形のまま、実現状態が片方へ偏ることを自発的な破れの入口として考えます。
実際の試料では、ごく小さな外場や揺らぎが向きの選択に関わり得ます。「自発的」という言葉を、何の原因も条件もないという意味には読みません。
磁石で、向きが選ばれる
強磁性体では、温度などの条件によって磁化が現れます。向きに関する対称性の高い模型でも、磁化が特定の方向を向いた状態は、その向きを回すと別の状態になります。磁化は、状態を区別する秩序変数の例です。
現実の結晶には磁化しやすい方向や磁区などもあり、一つの矢印だけの模型では足りません。また有限の系と、熱力学的な極限でいう厳密な対称性の破れにも区別があります。
なぜいろいろな分野に登場する?
相転移や場の理論など、違う対象でも「規則が許す対称性」と「実現状態」を分けて考えるために使えます。ただし、同じ言葉が出てきたから、磁石・超伝導・素粒子の仕組みがすべて同じというわけではありません。
ネーターの定理は主に法則の連続対称性と保存量を結び付けます。自発的対称性の破れは、その法則のもとでどんな状態が現れるかを問います。二つを並べると、対称性という言葉の使い道が見えてきます。
明示的な破れと自発的な破れ
| 観点 | 明示的な対称性の破れ | 自発的な対称性の破れ |
|---|---|---|
| 規則や条件 | 特定の向きを区別する項がある | 規則は対称性を持つ |
| 状態 | 規則の違いが反映される | 選ばれた状態は対称性を持たない |
| 谷の比喩 | 最初から片側が低い | 同じ深さの二つの谷の一方を選ぶ |
実際の系では外場や系の大きさ、極限の取り方が関わります。「自発的」は原因も条件もない、という意味ではありません。