哲学の用語は、難しい答えを覚えるためというより、問いの違いを見分ける道具です。認識論・存在論・義務論など24語を、知識・世界・倫理・考え方の四つに分けて説明します。
各項目は意味・具体例・注意点の順に読めます。例は理解のための作例です。言葉だけで相手や現象を決めつけず、成立する条件も確認してください。
知るとは何か
1.認識論
知識とは何か、何を根拠に知っていると言えるかを考える分野です。正しい答えを偶然当てることと、根拠を持って知ることの違いを問います。
具体例:止まった時計をたまたま正しい時刻に見ても、時刻を知ったと言えるかを考えます。
注意点:人の認知の仕組みを実験する認知心理学と、問いの置き方が異なります。
2.正当化
ある信念を受け入れる理由や根拠が適切か、という問題です。真であることと、本人がよい根拠を持つことは分けて考えられます。
具体例:天気予報と空の観察を踏まえて雨を予想する場合と、くじで予想する場合を比べます。
注意点:根拠があっても誤ることはあります。正当化を、事後的な言い訳という日常語だけで捉えないでください。
3.懐疑論
知識の成立や範囲を疑い、その疑いを退けられるか検討する立場・議論です。個別の情報を疑う場合から、外界の知識全般を問う場合まであります。
具体例:夢の中でも現実と思っていたなら、今の経験だけで夢でないと断言できるかを考えます。
注意点:何でも嘘と決める態度とは違います。疑う側にも、どの理由がどこまで及ぶかの説明が必要です。
4.経験論
知識や概念の形成において経験を重視する立場です。理性を全否定するのではなく、何を知識の源泉とするかに焦点を当てます。
具体例:甘さを言葉だけで説明される場合と、実際に味わう場合で何が分かるかを比べます。
注意点:実験で確認した意見すべてが、哲学上の経験論そのものになるわけではありません。
何が存在するのか
5.存在論
何が存在し、どのような種類のものが世界を成り立たせるかを問います。物体だけでなく、数・性質・出来事なども論点になります。
具体例:同じ赤い積み木が二つあるとき、積み木とは別に「赤さ」が存在するのかを考えます。
注意点:存在を証明する単一の方法の名前ではありません。分野によって採用する存在の捉え方も違います。
6.実在論
ある対象が、私たちの考えや認識とは独立して存在すると捉える立場です。何についての実在論かを明示することが大切です。
具体例:誰も見ていない部屋にも机はある、と考えるとき、観察と存在を分けています。
注意点:科学・数学・道徳などで論点は異なります。現実的な性格という意味ではありません。
7.心身二元論
心と身体を、基本的に異なるものとして捉える考え方です。実体を二つに分ける説や、性質の違いを主張する説があります。
具体例:脳の活動を測れたとしても、痛みの感じそのものと同じ説明になるのかを考えます。
注意点:心を独立させれば、身体とどう関わるかという別の問題が生じます。
8.決定論
ある時点の世界の状態と法則によって、以後の状態が一意に定まるという考え方です。予測できることとは区別します。
具体例:初期条件に従う模型でも、わずかな測定誤差のため先の動きを予測しにくい場合があります。
注意点:予測不能だから直ちに自由意志が証明されるわけではありません。宿命論とも同じではありません。
何をよいと考えるか
9.義務論
結果の良さだけでなく、守るべき義務や権利、行為のあり方を重視して善悪を考える立場の総称です。
具体例:皆の楽しみが増えるとしても、本人の同意なく秘密を公開してよいかを問います。
注意点:どの義務を優先するかは議論があります。結果を一切考えない人という性格分類ではありません。
10.帰結主義
行為や規則の正しさを、その帰結に基づいて評価する考え方です。どの帰結を価値あるものと数えるかで立場が分かれます。
具体例:二つの交通ルールのどちらが事故や不便を減らすか、影響を広く比べます。
注意点:目先の自分の利益だけを追うこととは限りません。予測の不確実さや分配も問題になります。
11.功利主義
幸福や福利などの総体を重視する帰結主義の一群です。誰の利益も公平に数えるという発想を持ちます。
具体例:公園を一つ作る候補地について、使う人々の便益と負担を比べます。
注意点:幸福の測り方や少数者の権利には難問が残ります。多数決で常に正しさが決まるという説ではありません。
12.徳倫理
どの行為が正しいかだけでなく、どのような人であるべきか、よい判断をどう育むかを重視します。
具体例:落とし物を返すとき、罰の回避だけでなく誠実さが習慣になっているかを考えます。
注意点:優しい気持ちさえあれば結果は問わない、という単純な主張ではありません。状況判断も重要です。
問いを深める道具
13.思考実験
条件を想像上で整え、直感や理論の含意を検討する方法です。現実に行う実験とは証拠の種類が異なります。
具体例:立場を知らずに社会のルールを選ぶとしたら、何を公平と考えるかを想像します。
注意点:想像した結論だけで、現実の人々も同じ行動を取ると証明したことにはなりません。
14.反例
ある一般的な主張が成り立たないことを示す例です。主張の対象と条件に実際に含まれる必要があります。
具体例:「すべての鳥は飛ぶ」に対し、飛ばない鳥を示すと全称の主張が崩れます。
注意点:「多くの鳥は飛ぶ」に一例を示しても、同じ仕方では否定できません。
15.必要条件
そのことが成り立つなら欠かせない条件です。条件があるだけで、目的のことまで必ず成り立つとは限りません。
具体例:整数が6の倍数なら偶数です。偶数であることは必要ですが、2は6の倍数ではありません。
注意点:必要と十分は、何に対する条件かを固定して比べます。
16.パラドックス
もっともらしい前提や推論から、矛盾や直感に反する結論が出る問題です。原因は語の曖昧さや前提の取り違えなどさまざまです。
具体例:部品をすべて替えた船は同じ船か、と同一性の基準を問い直します。
注意点:単に難しい問題や珍しい事実すべてを指すわけではありません。
覚えた言葉を、自分の例で確かめる
気になった一語を選び、「当てはまる例」と「似ているけれど当てはまらない例」を一つずつ作ると、定義の境界が見えてきます。説明が難しいときは、隣の項目との違いから考えてみましょう。