自分のマグカップを譲るならいくらか。まだ持っていない同じマグカップを買うならいくらか。同じ品物でも、立場が変わると答えが変わることがあります。保有効果は、その評価のずれを扱います。
保有効果とは
保有効果とは、あるものを所有している人が、それを持っていない場合より高く評価する傾向です。「売るなら受け取りたい額」と「買うなら払ってもよい額」の差で研究されてきました。英語ではendowment effectと呼ばれます。
ただし、売値と買値が違えばすべて保有効果というわけではありません。手数料、探し直す手間、情報の違い、予算などにも理由があります。比べる条件をそろえてこそ、所有の影響を考えられます。
マグカップの研究で何を比べたか
カーネマン、クネッチ、セイラーの研究では、参加者の一部へマグカップなどを渡し、その後の交換を調べました。手放すために求める額と、入手するために払う額に差が見られ、取引の量も理論上の予測より少なくなりました。
長年使い込んだ思い出の品だけの話ではない点が興味深いところです。一方、あらゆる市場や品物で同じ差になるという意味ではありません。
出典:Kahneman, Knetsch & Thaler(1990)Experimental Tests of the Endowment Effect and the Coase Theorem
「思い出」「手間」「所有」を分ける作例
引き出しに入れたままのノートを、使う人に譲るか考えてみます。次の問いは原研究の再現ではなく、理由を分けるための作例です。
| 理由 | 確かめる問い |
|---|---|
| 思い出がある | 写真や記録だけでは残せない価値があるか |
| また必要になる | 必要になる場面を具体的に説明できるか |
| 手放すのが惜しい | 同じ品を今持っていなければ、買って手元に置くか |
思い出や使う予定があるなら、残す判断にも理由があります。高く評価していることを、すぐに「非合理」と決めつける必要はありません。自分が何に価値を感じているかを言葉にするのが目的です。
イケア効果・損失回避との違い
自分で組み立てた物への評価を扱うイケア効果は、制作に関わったことに注目します。保有効果は所有の有無が中心なので、努力して作っていなくても問題になります。
損失回避は、所有物を手放すことが「損失」に見える理由の一つとして考えられます。ただし、保有効果という観察された傾向と、それを説明する仕組みを同一視しないことが大切です。
自分の作品を評価するときにも
アプリの機能を作った側には、苦労や愛着があります。初めて触る利用者は、その過程を知りません。作者が好きな機能と、利用者が使いやすい機能が違うことは自然です。
改善案を考えるときは、機能名を伏せた説明でも必要性が伝わるか、初めて使う人が目的を達成できるかを確かめます。愛着をなくす必要はありません。愛着とは別に、利用場面を観察する材料を持つ工夫です。
保有効果を知ると、「価値があるから持っている」だけでなく、「持っていることが価値の感じ方を変えているかもしれない」という問いが加わります。