今使っている方法に大きな不満はない。でも、比較したこともない。「そのままでいい」が内容を評価した結果なのか、変更すること自体を避けた結果なのかを考える言葉が、現状維持バイアスです。
現状維持バイアスとは
現状維持バイアスとは、現在の状態や以前の選択を維持する案を、相対的に選びやすくなる傾向です。新しい案が必ず優れているという話ではありません。同じ選択肢でも、どれを「今の状態」として提示するかが判断に影響するか、という問いです。
サミュエルソンとゼックハウザーは選択実験と実際の制度選択のデータから現状維持の傾向を検討しました。変更の費用、不確実性、心理的な要因など、複数の説明を扱っています。
出典:Samuelson & Zeckhauser(1988)Status Quo Bias in Decision Making
同じ二つの案を、逆から比べる
次は架空のメモアプリを選ぶ作例です。数値は説明用で、製品の比較ではありません。
| 条件 | アプリA | アプリB |
|---|---|---|
| 検索にかかる時間 | 約10秒 | 約5秒 |
| 乗り換える作業 | 今使っていれば不要 | Aから移すなら約30分 |
| 必要な機能 | 満たす | 満たす |
今Aを使っているなら、30分の移行作業を避けることには理由があります。一方、すでにBを使っているならAへ戻るかと聞くと、判断の基準が見えやすくなります。
比べるときは、実在する移行費用を消して考えるのではなく、費用を明示したうえで、現在の選択というラベルがどれほど効いているかを確かめます。
初期設定・先延ばしとは、どこが違う?
初期設定のまま使う行動は現状維持と重なることがありますが、初期設定が推奨だと受け取られた、変更方法が分からない、時間がない、といった説明もあり得ます。行動だけを見て原因を一つに決めないようにします。
先延ばしは判断や行動を後回しにすること。比較して今の方法を選ぶのとは違います。「来月考える」を繰り返しているなら、選択の内容以前に、比較する日時や材料を決める工夫が役立つかもしれません。
変えるかどうかを、小さく試す
全部を移行する前に、影響の小さい一つの作業だけ新しい方法で試す。速さだけでなく、失敗の回復しやすさや分かりやすさも記録する。これは比較材料を増やす実践例です。効果が保証された処方ではありません。
- 今の方法を続ける利点を三つ書く。
- 変更に必要な手間と、戻す方法を確かめる。
- 小さく試せる範囲と、比較する日を決める。
アプリを作る側なら、設定の意味や変更方法を見つけやすくし、利用者が元に戻せるようにします。「変えない人が多い」ことを、全員が今の設定に満足している証拠と考えないことが大切です。