自分だけで最適な案を選べばよいとは限らない。相手の選択によって結果が変わる場面を考えるのがゲーム理論です。ここでは七つの例や構造を、誰が選ぶか・何を選ぶか・何が得られるかという順で見ます。
ゲーム理論は、人を出し抜く技術という意味ではありません。協力が難しい条件や、合意しやすくするルールも考えられます。実社会をそのまま説明し尽くすものではなく、仮定を置いて関係を整理する道具です。
目次
まず決める三つのこと
| 要素 | 二人で作業する例 |
|---|---|
| 参加者 | あなたと相手 |
| 選択肢 | 分担する/相手に任せる |
| 結果の評価 | 作業量、成果、次回の協力など |
点数は説明のために置く評価です。現実の人が点数だけで動く、という主張ではありません。相手への配慮を評価に含めれば、ゲームの形も変わります。
1.囚人のジレンマ
囚人のジレンマは、相手の選択がどちらでも自分は非協力を選ぶ方が得になるのに、二人とも非協力だと、二人とも協力する場合より悪い結果になる構造です。単に二人の仲が悪いという話ではありません。
共同作業で、自分だけ負担を避けると得だが、全員が避けると必要な作業が終わらない状況が入口になります。ただし現実の作業がこのゲームに当たるかは、負担と成果の評価次第です。誰かが協力したくなる追加の理由があれば、同じ利得表とは限りません。
考える問い:協力した側が一方的に不利になる条件は何か。
2.コモンズの悲劇
コモンズの悲劇は、多くの人が利用できる資源について、各自の利用利益に比べて資源を損なう費用が分散し、使い過ぎが起こり得る問題です。利用により他者の取り分が減ることが重要です。
共有の保存領域を各自が無制限に使えば、全体の空きが不足するかもしれません。誰がどれだけ使ったか分からないことも調整を難しくします。ただし共有なら必ず破綻するわけではありません。利用者が監視、上限、合意の更新などを組み合わせて維持する場合もあります。
考える問い:利用量の確認やルール作りができるか。
3.安全保障のジレンマ
安全保障のジレンマは、自分を守るための備えが相手からは脅威に見え、相手の備えを促し、双方がかえって不安になる構造です。相手に害を与える意図が最初からなくても起こり得る点が特徴です。
防御目的だと説明しても、相手が同じ設備を攻撃にも使えると考えるなら、言葉だけでは安心できないかもしれません。相手の意図が見えないこと、手段の用途を区別しにくいことが論点になります。現実の対立には多くの事情があるため、この構造だけで原因を説明し切ることはできません。
考える問い:相手から自分の行動はどう見えるか。
4.調整ゲーム
調整ゲームでは、相手が何を選ぶかに合わせることが、自分にとっても得になります。全員に共通の合図やルールがないと、同じ目的を持っていても選択がずれることがあります。
二人が連絡する時間を朝か夜にそろえたい場合、どちらの時刻でも一致すれば話せます。これは、相手が協力していても自分は裏切る方が得になる囚人のジレンマとは違います。時刻を先に決める、共通の初期設定を置くなど、どこにそろえるかを知らせることが役立ちます。
考える問い:どちらにそろえるか、事前に知らせられるか。
5.チキンゲーム
チキンゲームは、互いに強硬策と譲歩を選べる状況で、相手が譲るなら強硬策が有利だが、両者が強硬策を取ると双方に大きな損失が生じる構造です。どんな相手に対しても同じ選択が得になるわけではありません。
二人が共有設備の利用時間を譲らず、調整が成立しないとどちらも使えない場面を考えられます。「絶対に譲らない」という宣言だけを競えば、最悪の結果へ近づく恐れがあります。交代制や第三の時間帯を設けるなど、選択肢そのものを増やすと構造が変わります。
考える問い:強硬な姿勢を競う構造を変えられるか。
6.公共財とただ乗り
公共財は、典型的には利用者を排除しにくく、ある人の利用がほかの人の利用を減らしにくい財です。そのため、費用を負担しなくても利益を受け取れる「ただ乗り」が問題になる場合があります。
全員が読める共通マニュアルを作るとき、他の人が作ってくれれば自分は負担せず利用できます。しかし誰も作らなければ利益自体が生まれません。資源が使われて減るコモンズの問題とは区別します。分担や貢献の可視化などを考えるときも、協力する動機が複数あることを踏まえます。
考える問い:貢献を確認し、負担を分けられるか。
7.繰り返しゲーム
繰り返しゲームは、同じ参加者が一回限りでなく複数回やり取りする状況を扱います。現在の選択が、相手の次回以降の対応に影響するなら、今回だけの得点では判断しきれなくなります。
一度だけ協力を破ると得でも、次から相手が協力しなくなれば、長い目では不利かもしれません。ただし、将来の関係をどの程度重視するか、行動を正しく観察できるか、終了時期が分かるかで結論は変わります。「何度も会えば必ず協力する」という法則ではなく、協力が維持される条件を調べる見方です。
考える問い:関係は続くか、行動は観察できるか。
調整ゲームと囚人のジレンマを比べる
架空の二人が、連絡する時間を朝か夜にそろえるとします。二人とも同じ時間なら各2点、違えば各0点と置きます。次の表は「あなたの点、相手の点」の順です。
| あなた\相手 | 朝 | 夜 |
|---|---|---|
| 朝 | 2、2 | 0、0 |
| 夜 | 0、0 | 2、2 |
この場合は、朝にそろえる、夜にそろえるという二つの安定した組み合わせがあります。相手が朝なら、自分だけ夜へ変えると点が下がります。一方、囚人のジレンマでは、相手が協力していても自分だけ非協力へ変える誘因があるという違いがあります。
ナッシュ均衡は、みんなに最良とは限らない
ナッシュ均衡は、相手の選択を固定したときに、誰も自分だけの変更で得をできない組み合わせです。全員の合計点が最大だとか、結果が公平だという意味ではありません。
「自分だけ変えても改善しない」なら、相談、情報公開、繰り返しの関係、ルールの変更などを考える余地があります。ただし、繰り返せば必ず協力するわけでもありません。観察できることや、次の機会の見込みによって変わります。
出典:Stanford Encyclopedia of Philosophy「Game Theory」
出典:Stanford Encyclopedia of Philosophy「Prisoner’s Dilemma」
選択を変えて比べる:3つのゲームの体験例題
ゲーム、あなた、相手の選択を変え、結果を比べます。相手の行動を予測する診断ではなく、仮定した得点表を読み解く例題です。得点は「あなた、相手」の順です。
JavaScriptが無効な場合も、この下の得点表で結果を確認できます。
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3つの表と、純粋戦略ナッシュ均衡を読む
どのゲームも選択は同時、点数は双方が知っている設定です。相手を固定して自分だけ変更したとき、点が増えない組み合わせを双方について確認します。
調整ゲーム
| あなた\相手 | 北口 | 南口 |
|---|---|---|
| 北口 | 2、2 | 0、0 |
| 南口 | 0、0 | 2、2 |
純粋戦略の均衡:北口・北口と南口・南口。
囚人のジレンマ
| あなた\相手 | 協力 | 非協力 |
|---|---|---|
| 協力 | 3、3 | 0、5 |
| 非協力 | 5、0 | 1、1 |
純粋戦略の均衡:非協力・非協力。
チキンゲーム
| あなた\相手 | 強硬 | 譲歩 |
|---|---|---|
| 強硬 | −5、−5 | 3、0 |
| 譲歩 | 0、3 | 2、2 |
純粋戦略の均衡:強硬・譲歩と譲歩・強硬。
「安定している」と「合計点が最大」「公平」は別です。混合戦略の均衡や、繰り返し・相談・不確実な情報がある場合は、この一回の二択とは分けて考えます。
得点表を変えれば、結論も変わる
一回だけ・同時に選ぶ・相手の結果も分かるといった条件は、すべての現実場面に当てはまるとは限りません。繰り返し、評判、合意の強制力などが変われば、同じ名前の選択肢でも利得と戦略は変わります。現実へ応用するときは、表の数字が何を表し、何を省いたかを書き添えましょう。