会議の説明が分からなかったのに、周りが黙っているので質問をやめた。あとで聞くと、ほかの人も同じところで困っていた。多元的無知は、自分の本音と、周囲の本音についての思い込みがずれる現象です。
目次
多元的無知とは
集団の多くの人が個人的にはある意見や規範を支持していないのに、ほかの人は支持していると思い込む状態を、多元的無知(pluralistic ignorance)と呼びます。個人の理解不足というより、集団内の意見分布の読み違いが中心です。
誰も発言しないことを、全員が同意している証拠として扱うと、このずれが見えにくくなります。沈黙には、迷い、遠慮、説明待ち、無関心など、さまざまな理由があるからです。
作例:全員が「自分だけ分からない」と思う
以下は仕組みを示すための架空の例です。4人が新しいツールの説明を聞き、全員が保存の手順に疑問を持ったとします。誰も質問せず、互いの沈黙を「理解した」と読み取ってしまいます。
| 実際の状態 | 他人についての推測 | 表に出た行動 |
|---|---|---|
| 自分は保存手順が不明 | ほかの3人は理解していそう | 質問しない |
| ほかの3人も保存手順が不明 | 自分以外は理解していそう | 同じく質問しない |
表面の行動だけを見ると、全員が理解した会議に見えます。しかし、実際には疑問が共有されています。ここで「分かった人はいますか」だけでなく、「保存する手順を各自で書いてください」と確かめれば、沈黙とは別の材料が得られます。
研究では、自分と仲間の考えを分けて尋ねる
プレンティスとミラーの1993年の研究は、大学生の飲酒をめぐる態度を調べ、自分自身の居心地の悪さと、仲間がどう感じていると思うかの間にずれがあることを報告しました。
重要なのは、「自分はどう思うか」と「ほかの人はどう思うと思うか」を別々に測ることです。外から観察した行動だけでは、内心まで一致しているか分かりません。この研究結果を、そのまますべての学校や職場へ当てはめることもできません。
同調・偽の合意効果・アビリーンとの違い
| 用語 | 注目するずれ |
|---|---|
| 多元的無知 | 自分たちの本音と、他人の本音についての推測 |
| 同調 | 他者の存在による、判断や行動の変化 |
| 偽の合意効果 | 自分の考えは他人にも広く共有されているという過大評価 |
| アビリーンのパラドックス | 個々人が望まない方向へ、集団の決定が進むこと |
多元的無知では「自分は違うが、みんなは賛成だろう」と思い、偽の合意効果では「みんなも自分と同じだろう」と見積もることがあります。アビリーンのパラドックスは、多元的無知のような誤認から起こり得る集団の決定ですが、二つは同義ではありません。
本音を決めつけず、確かめる工夫
会議なら、話し合いの前に個別の意見を書き、賛否だけでなく疑問や保留も選べるようにします。声の大きい人の意見が出る前に記録すれば、自分の判断と周囲の影響を比べやすくなります。
匿名の回答も手段の一つですが、少人数では回答者が推測できることがあります。匿名と呼ぶだけで本音が出ると期待せず、回答をどう扱うかを説明し、分からないと言っても不利益にならない運用が必要です。
「本当は全員反対のはず」と逆向きに決めつけるのも避けましょう。大切なのは隠れた正解を想像することではなく、本人の意見を確かめる機会を作ることです。