右にあるものを見るとき、右目と左目は一緒に右を向きます。でも、左右の目で働く筋肉は同じ名前の筋肉ではありません。二つの目を一組として動かす仕組みを考える手がかりが、ヘリングの法則です。
ヘリングの法則は、両目への指令の関係
ヘリングの法則(Hering’s law of equal innervation)は、両目を同じ方向へ動かす際、協働する左右の筋肉に、等しく同時に神経の指令が送られるという原則です。日本語では「等量神経支配の法則」などと呼ばれます。
ここでの主役は、眼球を動かす外眼筋です。目の外側に付いた筋肉が、眼球の向きを変えます。左右の眼球が一緒にある方向を向くためには、筋肉の働きを組み合わせる必要があります。
右を見るとき、どの筋肉が働く?
正面から右へ視線を向ける場面を、水平の動きに絞って考えてみましょう。
| 目 | 主に働く筋肉 | 眼球の動き |
|---|---|---|
| 右目 | 外直筋 | 鼻から離れる方向へ動く |
| 左目 | 内直筋 | 鼻に近づく方向へ動く |
どちらも空間の中では「右」へ動きますが、眼球ごとに見ると、片方は外へ、もう片方は内へ動いています。右の外直筋と左の内直筋が、協働するペアになるわけです。
両目へ同じように「外へ動け」と指示したら、二つの目は別々の方向を向いてしまいます。必要なのは同じ名前の筋肉を動かすことではなく、目的の方向へ一緒に動く組み合わせです。このペアの考え方は、アイオワ大学の斜視に関する講義資料にも整理されています。
シェリントンの法則とは、何が違う?
混同しやすいのが、シェリントンの法則です。眼球運動について言えば、一つの目の中で、ある筋肉への指令が増えると、反対の動きをする筋肉への指令が減る、という関係を扱います。
- ヘリングの法則:左右の目をまたいだ、協働する筋肉の関係。
- シェリントンの法則:同じ目の中の、反対向きに働く筋肉の関係。
右へ向くための筋肉が働いても、逆向きの筋肉が強く引き続けていれば動きにくくなります。両目の足並みをそろえることと、それぞれの目で反対向きの働きを調整すること。この二つを分けると理解しやすくなります。両法則の説明は、米国眼科学会のEyeWikiでも確認できます。
近くを見ると、両目は内側へ向く
遠くの景色を右へ見る場合とは違い、顔の前の近いものを見るときは、両目がそれぞれ鼻の方向へ向きます。この動きは輻輳(ふくそう)と呼ばれます。目の動きには、左右へ一緒に向くものだけでなく、対象までの距離に合わせるものもあるのです。
「両目が協調する」を「両目がいつも平行に動く」と覚えると、近くを見る動きを説明できなくなります。どこを見るのか、どれくらい近いのかによって、必要な組み合わせは変わります。
二つの目は、一つの視線をつくる
ヘリングの法則は、目の複雑な制御を考えるための基本的な原則です。身近な「右を見る」という動きも、左右で役割が違う筋肉を組み合わせて実現しています。二つの部品を同じように動かすことと、一つの目的に合わせて協調させることは違う。その違いが、目の動きにはよく表れています。

