無限にも大きさの違いがある。満室なのに客を入れられるホテル、一覧に必ず載らない数、長さゼロなのに無数の点がある集合。20の用語を、意味・具体例・混同しやすい点から読み解きます。
意味・具体例・違いで読む20の言葉
1.集合
しゅうごう / set
どの対象が入るかを明確にした集まりです。対象を要素と呼び、同じ要素を二度書いても集合としての中身は増えません。並べた順番も通常は区別しません。
具体例:{1,2,2}と{2,1}は同じ集合です。一方、並び順や重複を記録するデータは、列や多重集合など別の道具で表します。何を同じものと見なすかで整理の仕方が変わります。
混同しやすい点:「美しい数すべて」のように基準が曖昧な集まりでは、入るかどうかが決まりません。また任意の条件から無制限に集合を作ると矛盾が生じるため、公理的集合論では作り方に制約があります。
2.空集合
くうしゅうごう / empty set ∅
要素を一つも持たない集合です。何も調べていない状態ではなく、対象を集める条件を決めた結果、該当する要素がない場合にも使います。記号は∅です。
具体例:整数のうち、2より大きく3より小さいものを集めると空集合です。ただし実数なら2.5などが入ります。対象の範囲をどこに設定したかによって、空になるかが変わります。
混同しやすい点:∅と{∅}は違います。前者の要素数は0、後者は空集合という一つの対象を入れた集合なので要素数は1です。「空の箱」と「空の箱が一つ入った箱」を区別する比喩で考えられます。
3.部分集合
ぶぶんしゅうごう / subset
集合Aのすべての要素が集合Bにも含まれるとき、AはBの部分集合です。要素数の比較だけでなく、一つずつ所属を確かめる包含関係を表します。
具体例:偶数全体は整数全体の部分集合です。また空集合はどの集合の部分集合でもあり、集合は自分自身の部分集合でもあります。自分自身を除くときは真部分集合と呼び分けます。
混同しやすい点:「要素である」と「部分集合である」は別です。{1}は{1,2}の部分集合ですが、1という要素そのものとは違います。無限集合では真部分集合でも元の集合と同じ濃度を持てる点が、有限の場合と異なります。
4.全単射
ぜんたんしゃ / bijection 一対一対応
二つの集合の要素を、重複も取りこぼしもなく一対一に対応させる写像です。単射は行き先が重ならないこと、全射は行き先の集合をすべて覆うことを指し、両方を満たします。
具体例:正の整数nを偶数2nへ対応させると、すべての正の偶数が一度ずつ登場します。偶数が整数の一部であっても、番号の付け替えによって同じ大きさとして比べられます。
混同しやすい点:単に矢印が引けるだけでは不十分です。違う出発点が同じ行き先に重なる、または行き先に余りがあるなら全単射ではありません。長さや面積を保つという条件も、この定義には含まれません。
5.濃度
のうど / cardinality 基数
集合の大きさを、一対一対応できるかどうかで比べる考え方です。有限集合では普通の要素数に一致し、無限集合でも同じ基準を使って大きさを区別します。
具体例:正の整数全体と正の偶数全体はnと2nを対応させられるので同じ濃度です。見た目に半分に間引いたようでも、無限集合の大きさは有限の数え方の直感だけでは決まりません。
混同しやすい点:ここでの濃度は溶液の濃さでも、数直線でどれほど密に並ぶかでもありません。有理数はどの区間にもありますが、濃度は可算です。順序の型を表す順序数とも役割が違います。
6.可算無限
かさんむげん / countably infinite
自然数と全単射を作れる無限集合の大きさです。1番、2番、3番と番号を付け、どの要素も有限の番号で現れるように列挙できることが要点です。
具体例:整数を0,1,−1,2,−2と並べれば、正負を含めても順に番号を付けられます。有理数も分子と分母の組を工夫してたどれば列挙でき、自然数と同じ濃度になります。
混同しやすい点:列挙を実際に最後まで終えるという意味ではありません。最後の番号は存在しません。また「可算」という語は有限集合を含めて使う場合があるため、無限であることを明確にするときは可算無限と呼びます。
7.非可算無限
ひかさんむげん / uncountable infinity
自然数で番号を付けても、すべての要素を漏れなく並べられない無限集合を指します。単に数が多すぎて作業が大変という意味ではなく、どんな列挙方法でも不可能という数学的な区別です。
具体例:0と1の間の実数全体は非可算です。仮に一覧にできたとすると、各行の対角の桁を変えて、どの行とも違う数を作れます。これが対角線論法の中心の考え方です。
混同しやすい点:非可算の集合が全部同じ大きさとは限りません。実数全体よりさらに大きい濃度もあります。また有限桁で保存した小数のデータ集は、実数全体そのものを表したことにはなりません。
8.アレフ・ゼロ
あれふぜろ / aleph-null ℵ₀ アレフゼロ
自然数全体の濃度を表す記号です。標準的な集合論では最小の無限基数であり、整数や有理数など可算無限集合の大きさにも使います。
具体例:ℵ₀個の客室を持つホテルに一人を追加できるという比喩は、可算無限集合に有限個を足しても同じ濃度になることを示します。普通の有限数の足し算と同じ感覚では扱えません。
混同しやすい点:ℵ₀は非常に大きい自然数の名前ではなく、最大の自然数でもありません。自然数にはいつでも次があります。順序を表すωと同じ要素数に関係しますが、基数と順序数では計算の意味が違います。
9.連続体
れんぞくたい / continuum
集合の大きさを論じる文脈では、実数全体や、その濃度を指します。実数の濃度は通常cと書き、自然数の部分集合全体の濃度2^ℵ₀と等しくなります。
具体例:実数の区間(0,1)と実数全体は全単射で対応できます。線分が有限の長さだから、無限に延びる数直線より要素数が少ないとは限りません。濃度と幾何学的な長さは別の尺度です。
混同しやすい点:連続体という語は、物理の連続体模型や位相数学で別の定義にも使われます。ここでは集合の濃度の話です。またℵ₀とcの間に別の濃度があるかという問いが、連続体仮説につながります。
10.カントールの対角線論法
かんとーるのたいかくせんろんぽう / Cantor diagonal argument
全部を一覧にしたという仮定から、その一覧のどの行とも違う対象を作り、列挙できないと示す論法です。第n行の第n成分を変えるため、対角線という名前が付いています。
具体例:0と1の無限列を並べたと仮定し、n番目の列のn番目の値を反転した新しい列を作ります。新しい列は第n列と少なくともn番目で違うので、どの列にも一致しません。
混同しやすい点:有限個の行を眺めて規則を推測する証明ではありません。任意の列挙への反論を一つの構成で与えています。実数の小数展開を使う場合は、0.999…=1のような二重表現を避ける工夫も必要です。
11.カントールの定理
かんとーるのていり / Cantor theorem
どんな集合Aでも、その部分集合をすべて集めた冪集合P(A)のほうが、Aより濃度が大きいという定理です。無限の大きさにも、さらに大きいものを作れることを示します。
具体例:Aの各要素aに部分集合f(a)を割り当てたとします。「aがf(a)に入らない」要素だけの集合Dを作ると、Dはどのf(a)とも一致できません。これも対角線型の議論です。
混同しやすい点:有限集合なら要素数nに対し部分集合は2ⁿ個です。無限の場合も大小関係は成り立ちますが、巨大な整数の比較ではありません。この定理から「すべての集合を入れた集合」を無制限に考える危うさも見えてきます。
12.冪集合
べきしゅうごう / power set
ある集合の部分集合をすべて要素として集めた集合です。元の要素を並べ直すのではなく、選び方そのものを新しい要素として扱います。記号P(A)などを使います。
具体例:A={赤,青}なら、冪集合は{∅,{赤},{青},{赤,青}}です。何も選ばない場合と全部選ぶ場合も含めて四通りあります。要素がn個なら各要素を入れるか否かの二択で2ⁿ通りになります。
混同しやすい点:AとP(A)では要素の種類が一段違います。前者の要素が色なら、後者の要素は色を選んだ集合です。自然数の冪集合は非可算であり、元の集合が番号を付けられるからといって、その全ての選び方まで列挙できるわけではありません。
13.ヒルベルトのホテル
ひるべるとのほてる / Hilbert hotel
可算無限個の部屋がすべて埋まっていても、客を移動させれば新しい客を入れられるという思考実験です。無限集合と真部分集合が同じ濃度を持つことを、客室の番号で表します。
具体例:一人追加するならn号室の客をn+1号室へ移し、1号室を空けます。可算無限人を追加するなら既存客を2n号室へ移し、新しい客を奇数号室へ順に入れられます。
混同しやすい点:実在する建物の収容力や移動時間についての主張ではありません。すべての部屋に番号があり、同時に対応を定義する数学的な模型です。また非可算人の集団まで同じ方法で入れられるわけではありません。
14.稠密
ちゅうみつ / dense
ある空間のどの点の近くにも、その集合の要素が見つかる性質です。実数の中の有理数なら、どんな小さな開区間にも有理数が入る、という意味になります。
具体例:1.414と1.415の間にも、さらに狭い区間にも有理数を選べます。数直線で隙間なく近づけるように見えても、有理数だけでは√2などの無理数を含みません。近づけることと所属することは別です。
混同しやすい点:稠密さは濃度の大きさと同じではありません。有理数は可算でも実数の中で稠密です。またどの空間で近さを考えるかが必要で、対象となる空間を省いて「稠密だから多い」とだけ読むと意味が曖昧になります。
15.カントール集合
かんとーるしゅうごう / Cantor set
閉区間[0,1]から中央の開いた三分の一を除き、残った各区間でも同じ操作を繰り返して得る集合です。穴をいくつも開けたように見えて、非可算個の点が残ります。
具体例:最初に(1/3,2/3)、次に(1/9,2/9)などを取り除きます。除いた区間の長さの合計は1になりますが、端点などは残り、最終的な集合は空ではありません。
混同しやすい点:残る集合のルベーグ測度は0ですが、濃度は実数全体と同じです。長さが0なら点が有限個しかない、とは言えません。また有限回の除去で残る区間の集まりと、無限に操作した極限の集合は区別します。
16.順序数
じゅんじょすう / ordinal number
よく順序付けられた集合の並び方の型を表す数です。要素がいくつあるかを比べる基数に対し、どのような順番で並んでいるかを捉えます。無限ではこの違いがはっきり現れます。
具体例:自然数を0,1,2,…と並べた型をωとします。その後ろに一個追加したω+1は、最後の要素を持つためωと順序の型が違います。ただし要素数の濃度はどちらも可算無限です。
混同しやすい点:無限の順序数の足し算は、普通の自然数のように順番を交換できるとは限りません。1+ωとω+1は異なります。「無限に1を足しても同じ」という話が基数についてか順序についてかを確認する必要があります。
17.連続体仮説
れんぞくたいかせつ / continuum hypothesis CH
自然数の濃度と実数の濃度の間に、別の濃度を持つ集合はない、という仮説です。標準的な記法では、実数の濃度が次の無限基数ℵ₁と等しいかを問います。
具体例:可算無限と非可算無限が違うと分かった後、「その間の大きさはあるのか」とさらに問う発想です。数直線の途中に隙間があるか、という幾何学的な質問ではありません。
混同しやすい点:通常の集合論の公理系ZFCが無矛盾なら、その公理だけでは肯定も否定も証明できません。計算が遅いから未解決という話とは違います。また任意の公理系でも決められない、という主張ではありません。
18.選択公理
せんたくこうり / axiom of choice
空でない集合の族から、それぞれ一つずつ要素を選ぶ関数が存在する、という公理です。有限個の選択では自然に見えることを、一般の無限個の集まりまで認める点が特徴です。
具体例:番号付きの無数の箱があり、どの箱にも何か入っているとします。各箱から一つずつ選んだ一覧の存在を考えます。要素を具体的に指定する統一的な規則がなくても存在を認めるのが要点です。
混同しやすい点:実際に選び終える手順や計算方法を与える公理ではありません。集合論の定理には選択公理を使うものと使わず証明できるものがあり、直感的な箱の比喩だけで、あらゆる選択を同じ難しさだと判断しません。
19.整列可能定理
せいれつかのうていり / well-ordering theorem
どんな集合にも、空でない任意の部分集合が最小要素を持つような順序を入れられる、という定理です。標準的な集合論の枠組みでは選択公理と同値になります。
具体例:自然数の通常の順序は整列順序です。一方、実数の通常の大小順序では、正の実数全体に最小要素がありません。定理は実数をいつもの大小とは別の順序で整列できると述べています。
混同しやすい点:その順序を日常的な数の並べ方として簡単に書き出せるとは限りません。また整列できることは、自然数で順に番号を振って列挙できることと同じではありません。非可算集合の整列も含む主張です。
20.ラッセルのパラドックス
らっせるのぱらどっくす / Russell paradox
自分自身を要素に含まない集合だけを集めた集合Rを考えると、Rが自分を含むかという問いのどちらの答えも矛盾する、という問題です。条件から無制限に集合を作る発想を揺さぶりました。
具体例:Rが自分を含むなら条件に反し、含まないなら条件を満たすので含まれることになります。「自分でひげを剃らない人だけを剃る理髪師」の例は、この自己言及の構造を示す比喩です。
混同しやすい点:現代の公理的集合論は、集合を作る規則を制限するなどしてこの矛盾を避けます。数学全体が矛盾したという結論ではありません。理髪師の話では、そもそも条件を満たす理髪師が存在できないと読みます。
無限でも、一対一に対応できる
可算無限と非可算無限
| 比べる点 | 可算無限 | 非可算無限 |
|---|---|---|
| 自然数との対応 | 漏れなく番号を付けられる | どんな番号付けでも覆えない |
| 例 | 整数、有理数 | 実数、自然数の冪集合 |
| 注意 | 列挙が完了するという意味ではない | 全て同じ濃度という意味ではない |