「もう支払ったから続けたい」と「続けると別のことができない」は、違う話です。サンクコストは今の選択では取り戻せない費用、機会費用は今の選択によって諦める次善の選択肢の価値。二つを分けると、続ける・変える・やめる理由を整理できます。
目次
二つの違いを表で比べる
| 観点 | サンクコスト(埋没費用) | 機会費用 |
|---|---|---|
| 見るもの | 選択しても回収できない、既に生じた費用 | 選ぶことで失う、実行可能な次善の選択肢 |
| 映画の例 | 返金できないチケット代 | 残りの時間を別のことに使う価値 |
| 判断での扱い | 回収不能な過去の費用自体は、今からの案の優劣を変えない | これからの案を比べる材料にする |
| 間違いやすい点 | 一度払った費用は全て回収不能、と思う | 諦めた候補の価値を全部足す |
「過去か未来か」は入口として分かりやすい区別ですが、決め手は今の選択で回収や使い道が変わるかです。過去に買った道具でも今売れるなら、その売却額を手放して使い続けることには機会費用があります。
映画の途中で帰るか迷ったら
返金できない映画のチケットに1,800円を払い、残りが1時間あるとします。最後まで見る場合も帰る場合も、1,800円は戻りません。この金額だけでは、今からどちらが良いかを決められません。
一方、残りを見る楽しさ、友人と感想を話せること、帰って休めることなどは、これから変わります。映画を続けるときに諦める最も価値のある別の使い道が、時間の機会費用です。
最後まで見ること自体が間違いではありません。「1,800円がもったいない」だけでなく「結末を知りたいから、この1時間を使う」と言えるなら、将来の価値に基づいた理由になります。反対に返金可能なら、その条件も比較に入ります。
開発に40時間かけた後の、次の10時間
架空のアプリ機能に40時間かけ、完成まであと10時間かかるとします。今からの10時間を、機能完成・不具合修正・休養のどれかに使えるとしたら、比較するのは各案がこれから生む価値と負担です。
| 案 | これから得たいもの | これからの主な負担 |
|---|---|---|
| 機能を仕上げる | 新しい遊び方を提供できる | 実装10時間と、その後の保守 |
| 不具合を直す | 既存の使いにくさを減らす | 調査と修正10時間 |
| 休む | 疲労を減らし、生活の余裕を確保する | 機能や修正の完成が遅れる |
過去の40時間は取り戻せません。ただし、そこで得た知識や再利用できるコードは、今後の作業を助けます。その将来への効果まで無価値とする必要はありません。過去の支出額と、今残っている資産の将来価値を分けます。
完成させる価値より不具合修正の価値が低く、休養がさらに低いと自分で判断した場合、完成の機会費用は次善の不具合修正の価値です。修正と休養が同時にできないなら、二つを足して比較しません。評価が不確かなら、まず小さく試す案も候補になります。
「払ったお金を無視する」を広げすぎない
次の支払い、解約料、返金、売却できる物、今後の保守費用は、現在の選択で変わる場合があります。それらまでサンクコストとして除外すると、比較がずれます。
例えば以前買った機材を今1万円で売れるなら、使い続けることで売却機会を諦めます。この1万円は、昔いくらで買ったかとは別の現在の機会費用です。同じ1万円を「売却収入の放棄」と「機材を保有する費用」として二重に加算しないようにします。
サンクコストとコンコルド効果も別
サンクコストは費用の性質を表します。その回収不能な費用に引かれて、これからの価値に見合わない継続を選んでしまう判断の傾向が、コンコルド効果などの言葉で説明されます。費用が存在することと、判断が偏ることは同じではありません。
また、時間や満足を全て金額へ直す必要はありません。家族との時間、学ぶ楽しさ、休養なども価値です。比較の目的は何でも利益最大化することではなく、自分が何を得ようとしているかを明確にすることです。
迷ったときの整理用メモ
- どの案でも戻らないものを書き出す。
- 案を変えると回収できるもの・追加で必要なものを書く。
- 今使う時間やお金の、次に良い使い道を一つ選ぶ。
- 過去の金額ではなく、これからの得るものと諦めるものを比べる。
確認問題:返金不可の参加料を払った講座を休むと、参加料が新たに失われる?
参加料は、出席しても休んでも戻らないという設定なら、既にサンクコストです。今の判断では、授業から得るものと、休む時間の価値、今後の影響を比べます。出席すれば返金されるなど条件が違えば、比較も変わります。
参考資料
本文の人物・場面・数値は、説明用に作成した架空の例です。