「みんなで使うものなのに、各自が自分の得を考えるとうまくいかない」。公共財のただ乗り問題とコモンズの悲劇は、この説明だけなら似ています。見分ける手がかりは、ある人の利用が、ほかの人の使える量を減らすかどうかです。
公共財は財の性質を表す言葉で、コモンズの悲劇は共有資源が過剰に利用される問題を表す言葉です。同じ分類表の対等な二項目ではないため、ここでは「公共財の供給問題」と「共有資源の過剰利用」を比べます。
目次
違いを先に表で見る
| 観点 | 公共財の供給問題 | コモンズの悲劇 |
|---|---|---|
| 利用の競合 | 誰かが使っても他者の利用を減らしにくい | 誰かが使うと他者の取り分が減る |
| 排除の難しさ | 費用を払わない人も利用できる場合がある | 利用者を締め出しにくい場合がある |
| 問題の典型 | 他人の負担に頼り、必要な量が作られない | 各自が利用を増やし、資源が減りすぎる |
| 着目するルール | 費用と仕事の分担、貢献の確認 | 利用量の上限、監視、再生の条件 |
例1:全員が読めるマニュアルが、誰にも書かれない
あるグループで、誰でも読める共通マニュアルが必要になったとします。一人が読んでも文章は減らず、ほかの人も読めます。しかし作成には時間がかかり、完成すれば書かなかった人も使えます。全員が「誰かが書くだろう」と考えると、必要な資料が生まれません。
これは、利用する利益は広がる一方で、作る負担は担当者に集まりやすい問題です。項目を分担する、作業時間を確保する、更新担当を交代するなど、供給側の仕組みが論点になります。本文が減らないからといって、作成・保守の費用までゼロになるわけではありません。
例2:共有の保存領域が、不要なファイルで埋まる
同じグループで、100GBの保存領域を共用しているとします。ある人が40GBを使えば、ほかの人に残る空きは60GBです。各自が「念のため全部残そう」と考えて保存すると、全体では空きがなくなるかもしれません。
この場合は利用が競合します。容量上限、期限付き保存、管理者による確認など、使い方のルールが候補です。ただし共同所有というだけで悲劇になるとは限りません。利用者が相談して実効的な管理を続けられる場合もあります。自由に使い放題の状態と、規則のある共同管理を区別します。
同じサービスに、両方の性質が混ざることもある
マニュアルの知識は読んでも減りませんが、それを配信するサーバーは混雑することがあります。記事を作る問題と、サーバーの容量を使う問題を一つにすると、対策を取り違えます。
また、料金や認証で利用者を限定すれば、排除しにくさは変わります。財の性質は物の名前だけで固定されず、技術やルール、混雑の条件も関わります。「インターネットだから公共財」「公共施設だから競合しない」とは決められません。
当事者の外へ広がる利益・負担も考えたいときは、外部性と公共財の比較へ進んでください。
対策を考える前の三つの問い
- 何が不足しているか。作る時間なのか、使える残量なのか。
- 誰が費用を負担し、誰が利益を得るか。利用や貢献を確認できるか。
- 参加者が決めたルールを、実際に守り続けられるか。
負担を分けることと、利用量を制限することは、異なる問題に働きかけます。禁止や罰だけを増やす前に、資源の性質と協力の条件を整理すると、必要な工夫を絞れます。
確認問題:全員が読める掲示板を、誰も掃除しない
掲示内容を読むことは競合しにくくても、掃除という維持作業には負担があります。この説明だけなら、まず維持の供給問題を考えます。掲示できる面積が足りなくなるなら、別に利用の競合も生じます。どの側面を見ているかを明示しましょう。
参考:Stanford Encyclopedia of Philosophy:Public Goods(公共財・共有資源の分類)。本文の日常場面と数値例は、特記のない限り説明用の作例です。
参考:Stanford Encyclopedia of Philosophy:The Free Rider Problem。本文の日常場面と数値例は、特記のない限り説明用の作例です。