昨日までよく効いた守り方が、明日も通用するとは限りません。自分が変わる間に、相手も変わっているからです。生物の進化にあるこうした関係を考えるのが、赤の女王仮説です。
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赤の女王仮説は「相手も進化する」という視点
赤の女王仮説(レッドクイーン仮説)は、生物同士の相互作用が、継続的な進化を促すという考え方です。名前は『鏡の国のアリス』の赤の女王との場面に由来し、走り続けても同じ場所にとどまる、という状況に重ねられています。
ここでいう「同じ場所」は、体の形が変わらないという意味ではありません。以前より適応したとしても、他の生物も変われば、相手に対する有利さがずっと続くわけではない、ということです。
宿主と寄生者で考えるとわかりやすい
説明用に、ある寄生者に感染しにくい特徴を持つ宿主がいると考えましょう。その特徴が有利なら、集団の中で増える可能性があります。ところが、寄生者側にその宿主へ感染しやすい特徴が現れ、広がれば、宿主の守りは以前ほど有利でなくなります。
- 宿主の集団に、感染されにくい特徴が広がる。
- 寄生者の集団に、その守りを突破しやすい特徴が広がる。
- 宿主側では、別の特徴が有利になる。
生物が作戦会議をしているわけではありません。世代を重ねる中で、持っている特徴によって生存や繁殖の結果が変わり、集団の構成が変化します。ある生物にとっての「環境」には、気温や水だけでなく、関わる他の生物も含まれるのです。
有性生殖とのつながりも研究されている
親の遺伝情報を組み合わせる有性生殖は、子の遺伝的な組み合わせを多様にします。寄生者が相手に合わせて変わり続ける状況では、こうした多様さが有利になる可能性があります。
Morranらの2011年の実験は、線虫と病原性の細菌を使い、この関係を調べました。相互に進化する条件では、異なる個体間での交配が維持されやすくなるなど、仮説に沿った結果が得られています。生命のすべての繁殖方法を一つの理由で説明する話ではなく、特定の関係で何が有利になるかを調べる研究です。
「天敵は必要」とまでは言えない
赤の女王仮説から、すべての生物に天敵が不可欠だと結論することはできません。進化には、気候の変化、突然変異、偶然による集団の変化なども関わります。相手との競争だけを見れば、生物の変化を取りこぼしてしまいます。
また、進化は「より優れた生物」へ向かう順位表でもありません。ある環境で有利な特徴が、別の環境では不利になることもあります。何に対して、どの条件で有利なのかが大切です。
仕事やゲームに置き換えるなら
対戦ゲームでは、自分が新しい戦い方を覚えると、相手も対策を覚えます。上達していても、勝ちやすさが変わらないことがある。この比喩は赤の女王仮説のイメージに近いでしょう。
ただし、人が意識して練習することと、生物集団の進化は別の仕組みです。日常へ持ち帰れるのは、「自分の変化だけでなく、相手の変化も見る」という視点。努力すれば必ず勝てる、あるいは永遠に走り続けるべきだ、という人生訓まで付け足す必要はありません。
赤の女王仮説と、偶然の変化を区別する
宿主と寄生者が互いに選択圧を変える説明と、小さな集団で偶然に遺伝子の割合が変わる説明は同じではありません。どんな変化にも「競争に勝つため」という目的を付けず、自然選択・遺伝的浮動などの仕組みを分けて考えます。
