数列がどこかへ近づくかを調べたい。でも、その行き先がまだわからない。そんなとき、数列の項どうしが近づいているかに注目するのが、コーシー列という考え方です。
コーシー列は、後半の項どうしが近くなる数列
コーシー列(Cauchy sequence、コーシーシーケンス)では、どれほど小さな幅を指定しても、ある位置より後のどの二つの項も、差がその幅より小さくなります。
式で表すと、任意の ε > 0 に対し、ある番号Nが存在し、m, n ≥ N なら |aₘ − aₙ| < ε となる、という定義です。ε(イプシロン)は、項どうしに許す距離を表しています。
定義と、実数のコーシー列が収束するという定理は、MITの実解析の講義ノートのLecture 10で確認できます。
1/nの数列で、εの意味をつかむ
次の数列を考えましょう。
1, 1/2, 1/3, 1/4, …
たとえば、どの二項の差も0.01より小さくしたいなら、101番目以降を見ます。そこにある値はすべて、0より大きく、1/101以下です。そのため、後ろのどの二項を選んでも、差は1/101より小さく、0.01にも届きません。
0.001より小さくしたければ、もっと後ろから見ればよいのです。指定されたεに合わせて、見る位置Nを後ろへ動かせる。ここが「どれほど小さな幅でも」という言葉の意味です。
隣同士が近いだけでは、足りない
「次の項との差が小さくなればよい」と覚えてしまうと、別の条件になってしまいます。例として、分数を少しずつ足す数列を考えます。
1, 1 + 1/2, 1 + 1/2 + 1/3, …
これをHₙと書くと、隣との差は Hₙ₊₁ − Hₙ = 1/(n+1) なので、0へ近づきます。しかし、HₙとH₂ₙの差を見ると事情が変わります。
H₂ₙ − Hₙ = 1/(n+1) + … + 1/(2n)
この部分にはn個の項があり、どれも1/(2n)以上です。したがって、差は少なくとも n × 1/(2n) = 1/2 あります。どれだけ後ろへ進んでも、0.1より小さい幅に後半全体を収めることはできません。
隣への一歩は小さくても、その小さな一歩をたくさん重ねれば、遠くへ行けます。コーシー列が要求するのは、隣だけでなく、後半のどの二項も近いことなのです。
収束との違いは、「何と比べるか」
収束では、数列の項と、近づく先の値Lとの距離を考えます。コーシー列では、項と項の距離を考えます。行き先の値を直接指定しなくても、後半がまとまっていくかを調べられるのが特徴です。
実数の範囲では、数列がコーシー列であることと、ある実数に収束することは同値です。この性質は実数の「完備性」と関係しています。
どの数の世界で考えるかも大切
有理数だけを使う世界なら、1.4、1.41、1.414、1.4142……と√2へ近づく有理数列を作れます。項どうしは近づいてコーシー列になりますが、行き先の√2は有理数ではありません。
実数まで含めれば、その行き先があります。「近づき方」の条件と、「行き先がその世界の中にあるか」の条件は別なのです。コーシー列は、数列の動きだけでなく、数の世界にどんな値がそろっているかを考える入口にもなります。

